クラウドに明け、クラウドに暮れる――。そんな表現が当てはまりそうな2009年のIT業界。だが、ITリーダーに、“これから”を考えるためのヒントを届ける『Enterprise Platform』サイトの2009年のアクセスランキング(ニュース記事を除く)を見ると、その裏側ではテクノロジが大きな変革期を迎え、IT技術者が新たな時代の幕開けに期待し始めたといえそうだ。
『Enterprise Platform』サイトの2009年のアクセスランキング(ニュース記事を除く)で1位になったのは、「【グーグルが描くテクノロジの未来】グーグルは“異形”のメーカー。ここが違う10個のポイント」である。検索サービスなどを実現するために米グーグルは独自のハードウエアやソフトウエアを開発/運用している。そこでの取り組み方針などを、既存のIT関連企業の“常識”と照らし合わせて解説した記事だ。
【グーグルが描くテクノロジの未来】と題する特集からはトップ20に、「ソースコードから見るグーグル気質、規律を持つ気さくな開発者集団」(6位)と、「グーグル 次の一手-始めにブラウザありき」(12位)の計三つの記事がランクインしている。1位にランクインした記事を執筆した日経コンピュータの中田敦記者によるグーグルの開発方針をテーマにした「【記者の眼】OSは変わった」も5位に顔を出す。
クラウドコンピューティングの震源地であるグーグルに対しては、数々の報道がなされている。それでも直接的にはサービスしか見えないことや、そのサービスが常に変化していることなどから、彼らの技術力や企業文化などへの興味は尽きることがないようだ。
国策スパコンの是非が注目集める
一方で、日本のIT戦略や利用企業の開発・運用現場の今について、日経コンピュータ記者が切り込んだ記事も上位に顔を出した。中でも、政権交代によって実現した事業仕分けによって、その是非が問われた次世代スパコンを取り上げた「【記者のつぶやき】国産の次世代スパコンは必要でしょうか?」は、2009年11月の公開にもかかわらず3位にランクインした。
事業仕分けという取り組み自体が話題になったこともあるだろうが、目前の課題を直接的に解決するわけではないテクノロジの研究・開発のあり方について、IT技術者のみならず、国家戦略の観点からも注目された結果だと言える。
このほか、記者が執筆したコラムとしては、三菱東京UFJ銀行のシステム統合プロジェクトに触れた「【記者の眼】6000人が作ったシステムは見事に動き、それを報じた3人の仕事は遅れた」が2位に、日経コンピュータのコラム『動かないコンピュータ』から運用現場の実状を探った「【記者の眼】日経コンピュータを創刊から737冊読んで分かった運用現場の底力」が17位に入っている。
IT技術者に“元気”を与える記事が高評価
テクノロジや業界動向をテーマにした記事と並んで、『Enterprise Platform』サイトのアクセスランキング・トップ20で目立つのが、IT技術者としてのスキルアップやキャリア形成をテーマにした記事である。
IT技術者の“元気”に直接つながるような、「【成長へのビタミンColumn】ビジネスの品質は35歳から45歳が決める」が9位に、「【感動するチーム】感動するチーム(前編)=「絆」が呼び覚ますやる気」が15位にランクインする。
また、日本の大手ITベンダー・トップへの【スペシャルインタビュー】も多く読まれた。NECの矢野薫社長による「ビジョンに沿った全体最適は「やれる」と言う人にやらせる」(7位)、NTTデータの山下徹社長の「若い時にプログラムを書こう、必ず人生の豊かさにつながる」(10位)、富士通前社長の野副州旦氏の「制度や仕組みをグローバル化すれば、自ずと人も企業も変わる」(14位)である。
ネットサービス企業からは、サイバーエージェントの藤田晋社長へのインタビュー記事「想定通りブログで稼げる会社になった」が4位にランクインしている。同社が手がけるブログサービス「Ameba(アメーバブログ=アメブロ)」が生まれた経緯などが語られている。
新型インフル発生で改めて注目されたノートPCの持ち出し問題
もう一つ、2009年を象徴するキーワードに、新型インフルエンザがある。自宅待機などに備えての在宅勤務体制が話題になったことを受けて、【ノートPCの持ち出し禁止問題を再考する】と題した特集から、「第1回 IT技術者の13%がノートPCを持ち出せない」が13位に、「第2回 こうすれば持ち出せる-IT技術者が考える解決策」が16位にランクインしている。
変革期を迎えた2009年、IT技術者は、課題を解決するためのテクノロジのあり方や、それを生み出す環境や体制について改め問題意識を持ち、次に向けて動き出そうとしたようだ。