Q プロマネとしてのストレスを強く感じています。3日くらい前から,水を飲んでも右の口角からこぼれて,右まぶたもうまく閉じません。痛みはないのですが,鏡を見たら顔の右側が少し垂れているようでびっくりしました。かなりショックを受けています。どうすればいいですか。(男性,35歳,プロジェクト・マネジャー)

 どうも右側の「顔面神経麻痺」のようです。人間の顔には,口を動かしたり笑ったり怒ったりする表情を作る「表情筋」が左右対称にあります。その筋肉をコントロールしているのが「顔面神経」です。

 この神経が麻痺すると,筋肉が収縮せず,締まるところが締まらないので,口から水がこぼれたり,目が閉じない,額のシワが伸びてなくなる,といった状態になります。

 痛覚は別の神経が担当していますので通常痛みは感じませんが,味覚障害や涙・唾液の分泌低下のほか,鼓膜の過振動抑制ができないので聞こえる音が通常より響く,といった症状を伴うこともあります。顔面神経は,脳から左右対称に伸びて,「側頭骨」(中耳・内耳が入っている骨)にある小さなトンネルをくぐり抜けて,ちょうど耳たぶ前方あたりにある「耳下腺」(唾を作る臓器)を貫いてから顔面の各筋肉にたどり着いています。この神経経路のどこかで障害が起これば顔面神経麻痺になります。

 例えば,普段は全く問題がない人が,風邪をひいたことをきっかけに,突然顔面が動かない,口角が締まらない,まぶたが閉じにくい,といった症状に気付くことがあります。また,ストレスが続いて睡眠が減り,体力が低下したときに突然発症するケースも少なくありません。質問者の場合は,このケースに当たりそうです。

 顔面神経麻痺の大半は,原因不明であることが多いのですが,そのほとんどはウイルス感染が原因ではないか,と見られています。

 具体的には,側頭骨内の神経が通る小さいトンネル内で,ウイルスによる炎症が神経の浮腫(水ぶくれ)を起こし,一時的に神経麻痺を引き起こすのです。特に水ぼうそうのウイルスで起こるケースを「ハント症候群」と言います。この場合は耳やその周囲に痛みを伴う水疱やかさぶたが発生します。耳鳴り・難聴・めまいを伴うこともあります。また,神経経路のそばで中耳炎が起こり,それがもとで顔面神経麻痺になる場合もあります。そのほか,まれに「脳腫瘍」や「耳下腺腫瘍」で顔面神経が圧迫されて,顔面神経麻痺になることもあります。

 顔面神経麻痺の症状が出たら,なるべく早期に専門科(耳鼻咽喉科)を訪ねて正しい診断と治療を受けることが大切です。早期の発見は早期の回復につながります。

 治療方法としては,炎症を押さえるステロイド剤や神経の活性化を促すビタミンB12,血流増加剤を点滴または内服します。まぶたが閉じないときには,角膜乾燥を防ぐために眼帯をして「人口涙液」を使用することもあります。定期的な薬の内服と適度な筋肉のリハビリが治療の基本ですが,症状の改善が見られない場合には,「顔面神経管開放術」などの手術を行うこともあります。

 顔面神経麻痺は,程度によっては長引くこともあり,回復まで半年から1年以上になる場合もありますが,一般には自然に治癒することが多いものです。仕事も普通にこなせます。あまり心配する必要はないでしょう。

浜口伝博
産業医
産業医科大学医学部卒業,専属産業医として東芝,日本IBMに勤務し,産業医活動のほか,健康管理システム開発を手掛ける。2005年9月からハマーコンサルティング代表。日本産業衛生学会理事,日本橋医師会理事,産業医科大学非常勤講師。著書は「健康診断ストラテジー(バイオコミュニケーション,共著)」など多数。日本産業衛生学会認定指導医,労働衛生コンサルタント