本コラムも半年が経過し、サービス・イノベーションの考え方や、価値共創社会の認知も徐々に進んできたように思われる。また、前々回の本コラムで矢田勝俊委員が紹介していたプロ野球パ・リーグマーケティングの事例にもあるように、チームを超えたパ・リーグ全体でのプロモーションや、勝敗のみにこだわらない野球の楽しみ方の提案など、サービス・イノベーションのプラットフォーム事例や広がりには興味深いものがある。

 しかし、こうした事例を紹介しつつも気になる点がいくつかある。1つは、サービス・イノベーション活動を主導した政府の「骨太の方針」も、景気後退の中で、担当省庁や行政のリーダーシップおよび支援の希薄さへの懸念である。サービス・イノベーション活動への予算の先細りだけでなく、実証実験や啓蒙(けいもう)活動に終始する段階から、実践・拡大に向けた施策への展開が見えてこない。産学連携や地域振興、人材育成や教育プログラムの開発も道半ばで縮小の懸念もある。

 既に先行事例として、地球温暖化対策への住民ぐるみの活動で、生活廃棄物の80%リサイクルや環境改善コミュニティーを立ち上げている鹿児島県の大崎町や、能登地域の過疎化対応、地域ヘルスケア連携を推進している恵寿総合病院(石川県七尾市)を中心とした医療、介護、リハビリ、老人ホームの100機関でのサービス・イノベーションなど、学んで、整理し、拡大すべき成功例も多くある。

 しかし、こうしたサービス・イノベーションを標準化、ノウハウ化、システム化して幅広く展開する具体的で実践的なアプローチは極めて少なく、事例の紹介にとどまっているのが現状である。ここには、サービス・イノベーションを業務プロセスと情報システム、技術活用の両面からソリューション化して整理、共有するアプローチと総合的に検討されていないという課題が大きい。

 2つ目の懸念は、政府による指針の不明確さである。前回期待を表明した民主党の「国民の生活が第一」のキャッチフレーズの具体的な社会や経済のプロセス・デザインが未だ見えてこない点である。政権そのものの活性化の課題とともに、ここでは特に、上記のソリューションの基軸の1つとなるIT(情報技術)活用に関する政権の取り組みの不在が気がかりである。

 国のCIO(最高情報責任者)は、国家戦略局の菅直人副総理のようであるが、民主党政権下では、従来のIT戦略本部や、知的財産戦略本部(12月に開催予定)の開催は一度もない。さらに、総務省の関心は通信行政の制度改革に注がれており、IT利活用の推進、成長戦略ソリューションの推進役であるべき経済産業省の活動にもリーダーシップと振興策の具体的方向の提示は見えてこない。

 残念な状況ではあるが、政府、行政の動きとは別に企業や社会、生活者の活動は新たなソリューションを生んでおり、我々はこの活動に注力してこれからも取り組みを進めて行きたい。

 本コラムのテーマも、これまでの事例の紹介も含め、プロセスやシステム、技術のソリューションやモジュールを取り上げ、これらのソリューションが、さまざまなサービス・イノベーション活動での参考となることを期待したい。

 新たな技術開発やプロセスデザインを紹介することで、ソリューション組み立てのシーズの提供を図るとともに、そうしたシーズを読者の皆様とともに活用して行く道も開ければと思っている。

 それでは、今回の私の情報提供としては、前回お話しした「逆境の中で値下げ競争を脱した元気な小売業、全日本食品と成城石井の挑戦」の後編として、成城石井の事例を取り上げて行きたい。