フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄

 まずはお知らせとなるが,残念ながら本連載は次回を持って最終回となる。長らくのお付き合いありがとうございました。というわけで,今回はAsteriskの最近の動向をお知らせし,次回は今後の展望について少し語ってみようと思う。

フュージョンがAsteriskに正式対応

 最近の大きなニュースがこれ。ようやくといった感はあるが,フュージョン・コミュニケーションズがAsteriskに正式対応することとなった(発表資料関連ページ)。

 そもそもIP電話(050を使用するもの)は,Asteriskとの親和性が高い。追加のハードウエア投資をほとんどすることなく,電話回線をAsteriskに収容できる。しかしながら,これまでは050番号でAsterisk接続を「可」とするVoIP事業者は少なかった。

 ところが,ここにきてようやくフュージョンという大手が名乗りを上げてくれたことは,今後のAsteriskの普及への一助となることは間違いないだろう。

 今回,フュージョンから提供されるのはAsterisk用のパッチである。これはAsteriskを同社のIP電話サービス「FUSION IP-Phone」に対応させるための修正プログラムのことで,まずは「クローズドβ」という形で限定したユーザー向けに提供される。十分な検証が行われた後に,一般公開されるもようだ。

 クローズドβ向けのパッチは,2009年11月25日から提供が開始されている。クローズドβでの試験は,オープンソース版のAsteriskをソースからコンパイルできる程度のスキルが必要とされる。導入のためのサポートや,情報交換はVoIP-Info.jpの掲示板でも行う予定なので利用していただきたい。

Skype for Asteriskにはアカウント上の注意点が

 以前も少し話題にした,Asterisk用のSkypeチャネル・ドライバである「Skype for Asterisk」(SFA)がディジウムから発売されている。価格は1チャネルあたり66ドル。これを高いとみるか安いとみるかは読者の皆さんの判断にお任せするが,ベータ・テストに申し込んでいた筆者は特典で“少しだけ”安く購入できたので,実際に動作を試してみた。

 まず最初に注意しておくべき点は,通常のSkypeアカウントは使用できないということ。これは既存のSkypeアカウントが使えないという意味ではなく,Skypeビジネスコントロール・パネル(BCP)の制御下にあるアカウントでなくては使えないという意味である。

 既存のアカウントを使いたい場合には,ビジネスコントロール・パネルに登録すればよい。ビジネスコントロールパネルでは,クレジットを購入したり各アカウントに追加したりという作業が行えるが,これは必須というわけではなく,単にSkypeとAsteriskをつなぎたいだけならば単純にビジネスコントロール・パネルに登録しておくだけである。なお,これはSkype for Asteriskで使うアカウントを登録しておけばよく,通話する相手は一般のアカウントでかまわないので,Skype for Asteriskに設定するアカウントだけの話である。

 現在販売されているSFAは,オープンソース版のAsterisk,Business Edition,Asterisk NOWと,ほぼ全てのAsteriskに対応している。派生版のAsteriskでは,基となっているソースのバージョンにもよるが,オープンソース版が基となっているものであれば組み込みは,さほど難しくないはずだ。基本的な導入手順はVoIP-Info.jpのWikiにまとめてあるので,こちらを参照してもらうと良いだろう。ディジウムのほかのプロダクト同様に,ライセンスキー認証方式である。

 実際に使ってみて分かったことだが,使用そのものは何の問題もないということ。これはディジウムのプロダクトであるのだから当然だが,思いのほか使いやすいという意味でもある。

 発信・着信については当然のように「Skype名」を使用するため,数字の番号体系を使用するAsteriskとのマッチングは少々,面倒だ。しかしURI(Uniform Resource Identifier,sip:name@domainのような形)を入力できるSIP(Session Initiation Protocol)電話機であれば,Skype名を入力してダイヤルすることも可能なため,結構便利に使えるシステムが出来上がる。ただし,基本的な記述方法はAsteriskのextensionsにかかわってくるため,Asteriskを自力で設定できる知識は必要である。

 企業ユーザーにとっては,Skypeは“勝手に”ファイアウォールなどを抜けてしまうため,ちょっとした厄介ものだった。Skype for Asteriskではこの問題もクリアされている。というのは,使用するポートを明示的に指定することができるのだ。通常,Skypeは「好き勝手」なポートで使えるものを使うのだが,SFAを使用する場合にはポートを明示的に設定できるため,管理者が決めたポートしか使わないようにできる。これにより,企業のセキュリティ・ポリシーを守りながらSkypeを使うことが可能となる。

 また,SkypeをAsteriskという電話システムに引き込むことで,Skypeを利用したコール・センター的な機能を実装することも可能だ。Skypeからの通話をIVR(自動音声応答)で処理することもできるようになるので,企業での利用には一考の価値ありというところだろう。