写真1●富士通の「クラウドサービス」(仮称)のデモ画面
写真1●富士通の「クラウドサービス」(仮称)のデモ画面
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 ITpro EXPO 2009 AWARDをエンタープライズ部門賞で受賞した富士通の「クラウドサービス」(仮称)は,大型データセンターにある仮想インフラの機能を,ネットワーク経由で提供するサービス。富士通と富士通研究所が2010年10月の提供開始に向けて開発を進めている。ITpro EXPO 2009展示会では,同サービスのユーザー向けに開発している管理ツールを参考展示した(写真1)。

 ユーザーはこの管理ツールで,仮想サーバーやストレージを増設したり,一時停止したりできる。初回だけWebサイトから利用申し込みの手続きをする必要があるが,それ以降は自由にこの管理ツールを使って,自社が利用する仮想インフラの構成を変更したり,一時停止させたり,利用をやめたりできるという。使いたいときに,使いたいリソースを,使いたいだけ提供する---可能な限り利用にかかるオーバーヘッドを減らすことを狙う。

サーバーとストレージに加え通信も

 デモで想定していたリソースは,サーバーとストレージだけだったが,2010年10月の提供開始までには,富士通が提供する企業向け通信サービス「FENICSIIネットワークサービス」も,同様の形で提供できるようにする。

写真2●有馬啓修サービスビジネス本部プロジェクト統括部長
写真2●富士通の有馬啓修サービスビジネス本部プロジェクト統括部長
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 富士通の有馬啓修サービスビジネス本部プロジェクト統括部長(写真2)は,通信サービスの追加について「どの事業者のどのような回線か意識せずに使えるようになる。通信料金は完全従量課金制なので,利用実績がゼロなら通信料金はゼロだ。こうした通信サービスを単独で提供する例はあっても,サーバーやストレージのクラウドサービスと合わせて提供する例はまだないのではないか」と語る。

「想定外」の600件を超える商談

 富士通は2009年4月27日にクラウドサービス基盤「Trusted-Service Platform」と複数の関連サービスを発表。クラウドコンピューティング・サービスを順次投入する計画を明らかにしている(関連記事)。今回の「クラウドサービス」は,Trusted-Service Platformの中核となるものであり,開発も「現在,最優先で取り組んでいる」(有馬統括部長)。

 基本的なシステム基盤やサービス体制などは,すでにできているという。今後提供までの約10カ月で,可用性の向上やセキュリティ管理の強化に取り組む。「当社はTrustedを宣言している。サービスの停止は許されない。セキュリティやトランザクション処理のスピードなど,安心して使っていただくために多くの部分を強化している。商用に耐える水準になれば提供開始する」(同)。

 4月27日の発表を契機として同社では,600件以上という「想定外の数」(同)の商談が進行しており,その大半が既存システムの移行を検討しているという。具体的には「既存のシステムをどうやってクラウドサービスに移行させるのか」,「既存のシステムを仮想化したい」という声が多く寄せられているそうだ。クラウドへの期待はあるものの,既に稼働しているシステムを移行させるリスクに不安を覚える企業も多いようだ。

提供までの10カ月で可用性とセキュリティを磨く

 クラウドサービスが,これまでのシステム調達と大きく異なる点は,カスタマイズ対応が許されないことである。例えば,2009年11月20日に富士通は,次世代サービス提供の拠点として「館林システムセンター新棟」の開設を発表。サーバー1000台でクラウド環境を作る計画を明らかにした(関連記事)。ここで使うサーバーはすべて同一スペックの製品である。つまり,このサーバーで動かないアプリケーションはクラウドサービス上で稼動させることができないことになる。

 有馬統括本部長も,「バックアップの内容や監視対象なども,マニュアルに沿った一定のやり方しか提供しない。これに適応しない場合は,個別のアウトソーシング・サービスを検討していただくことになる。クラウドサービスに合致しないシステムも多いだろう」と語る。

 逆に考えれば,クラウドの場合,ユーザー企業の多くが必要とする仕組みを,提供側が事前に予測して自社の事業計画に織り込んでおかなくてはならない,ということでもある。600件の商談で,既存システムの移行に不安を覚える多くのユーザー企業の声を富士通は聞いた。同社は2010年10月のサービス開始までに,それらの声をサービスに反映させ,可用性とセキュリティの向上,管理ツールのユーザビリティ向上に取り組む。