写真1●総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇康彦氏
写真1●総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇康彦氏
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 2009年11月30日に開催されたAndroid開発者向けイベント「Android Bazaar and Conference 2009 Fall(ABC 2009 Fall)」では、招待講演として総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇康彦氏(写真1)が登壇した。

 谷脇氏の講演タイトルは「オープンモバイルビジネス戦略」。「通信事業者がインフラ、端末、サービスをすべて提供する垂直統合モデルは、携帯電話の普及期には良いモデルだった。だが、日本国内で携帯電話市場が成熟期に入った今は、競合事業者同士が連携するオープン・イノベーションが必要だ。政府としてもその動きを支援していく」と力説した。

「新市場を創出できなければ、日本の放送・通信市場の縮小は不可避」

 谷脇氏は、まず通信インフラの普及では世界に先んじていることを指摘した。「固定通信でも移動通信でもブロードバンドの普及がここまで進んでいる国は、他にない。アメリカ、イギリス、フランスなど他の国は、デジタル経済を重視する方向を打ち出している。これらの国では光ファイバをこれから引いていこう、という段階。一方日本では光ファイバによる家庭向けサービスFTTHは1308万世帯に普及している。他の国に比べアドバンテージがある」。

 だが通信インフラの活用では諸外国に及ばない。例えば国連による電子政府準備度指数の国別ランキングでは、日本は2008年で11位と下位に甘んじている。学校内LANの整備、医療機関のレセプト(診療報酬請求)のオンライン化率、テレワーキングの進展などのランキングも順位が低い。「いわば高速道路が完備しているのに、車が走っていない状態だ」。

写真2●「放送・通信の従来市場は縮小、成長のためには新市場の創出が不可欠」との問題意識を示すスライド
写真2●「放送・通信の従来市場は縮小、成長のためには新市場の創出が不可欠」との問題意識を示すスライド
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写真3●新規市場創出の例としてMVNOを挙げた
写真3●新規市場創出の例としてMVNOを挙げた
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 将来へ向けた市場の展望としてとして、「通信・放送のマス市場は縮小傾向にある。従来市場の代替として登場した(Webメディアなどの)市場はあるが、マスを置き換える規模感はない。新しいマーケットの創出が必要」と厳しい現状認識を示した(写真2)。

 そのためには、水平的、あるいは垂直的な市場統合が必要となる。例えば、今までは携帯電話事業は通信事業者がサービス、端末、通信インフラを一貫してコントロールしていたが、オープンイノベーションのためには競合関係にある通信事業者の連携や、異業種の参入が必要となる。

 「同業他社が連携、異業種が連携、横串を刺してオープン・イノベーションを創出する。クローズド・モデルからオープン・モデルへの移行が求められる。この動きを政府としても支援したい」。

 総務省が、既存の通信事業者の回線を借りてビジネスを展開するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)への参入を促進しているのも、こうした理由からである(写真3)。

 「例えば米Amazonの電子ブック・リーダーKindleの利用者は、Kindleが通信端末だと意識することはないが、実際には立派な通信端末だ」と、通信に関わる多様なイノベーションの可能性があることを示し「今まで通信とは関係がなかった人たちが、ビジネスに参入してほしい」と語った。

 具体的な総務省における施策の例として、「サイバー特区」(ICT利活用ルール整備促進事業)でのデジタルコンテンツ管理流通ルールの整備や、「ユビキタス・アライアンス・プロジェクト」(ICT重点3分野途上国向けモデル事業)を紹介した。「サイバー特区」事業では、普段は競合する雑誌社同士が協調してデジタル配信を行う実証実験などを行った。

 さらに、放送、通信に分かれている現在の法体制の再構築が必要と指摘した。

「海外へアプリケーションやコンテンツを出していこう」

写真4●日中で調印したICT分野の協力に関する合意文書には「第3世代携帯電話及びそのアプリケーション」についての記載があることを紹介した
写真4●日中で調印したICT分野の協力に関する合意文書には「第3世代携帯電話及びそのアプリケーション」についての記載があることを紹介した
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 講演の終盤、谷脇氏は「国際競争力を高めるため、アプリケーションやコンテンツを、中国など海外にも出していこう」と会場に集まった開発者に呼びかけた。日中間で、2009年5月に鳩山邦夫総務大臣(当時)と中国の工業・情報化部の李毅中(り・きちゅう)部長の間で調印したICT活用を促進するための合意文書の中で「第3世代携帯電話及びそのアプリケーション」に関する協力を推進することが記載されていることなどを紹介した(写真4)。

 実際、China Mobileが提供するいわゆる「OPhone」ではAndroidアプリが動作することから、有望な新市場と目されている。谷脇氏の説明によれば、このような海外の新市場を開拓していかない限り、日本の放送・通信の市場規模は縮小し続けることになるのだ。

 Androidは、異なる端末メーカーや通信事業者が共通のアプリケーションやサービスを提供するプラットフォームである。Android上のビジネスの成功は、オープンなイノベーションが実現するか否かで大きく左右されることになろう。そうした問題意識があるためか、多くの参加者が講演には真剣に耳を傾けていた。

■変更履歴
シリーズタイトルが「Android Bazaar and Conference 2009 Spring」となっておりましたが,正しくは「Android Bazaar and Conference 2009 Fall」です。第1段落で「2009年1月30日」となっていましたが,正しくは「2009年11月30日」です。最後から2番目の段落で「Chia Mobile」となっていましたが,正しくは「China Mobile」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/12/03 14:00]