昨年から続いていたシステム開発投資の抑制は2009年4~6月に底を打った。景気の先行きは不透明だが,近い将来の景気回復を見据えたシステム開発案件が本格的に再開しそうだ。ただし,運用・保守分野への投資は緊縮ムードが続く。

 日経コンピュータと日経BPコンサルティングはIT投資額の増減を四半期ごとに測る「IT投資DI(ディフュージョンインデックス)」を策定。システム利用企業のCIO(最高情報責任者)やシステム部長などで構成する景況/IT投資動向調査パネルに対し,調査システム「AIDA」を使って「景況/IT投資動向調査(09年4~12月)」を実施した。調査期間は2009年8月19~30日で,有効回答は312社だった。

2四半期連続でDIはプラス維持か

 新規開発分野のIT投資DIは,2009年7~9月期にマイナスからプラスに転じた(図1)。7~9月に執行した新規開発投資額を,前四半期(4~6月)より「増やした」企業は19.9%だ。「減らした」企業は17.0%,「増減なし」は62.8%,無回答は0.3%である。

図1●期間中に執行した新規開発予算額の前四半期比(左),図2●期間中に執行した運用・保守予算額の前四半期比
図1●期間中に執行した新規開発予算額の前四半期比(左),図2●期間中に執行した運用・保守予算額の前四半期比
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 増やす割合から減らす割合を差し引いた新規開発分野のIT投資DIは2.9ポイント。2009年10~12月期(予測値)のDIも2.7ポイントで,2四半期連続でプラスを維持しそうだ。

 ただし,企業の売上高別にIT投資DIを算出すると明暗が分かれる。7~9月のDIは売上高300億円未満がマイナス1.5,300億~500億円がマイナス12.9,500億~1000億円が11.7,1000億円以上が14.6である。

 10~12月のDI(予測値)は,300億円未満がマイナス3.8,300億~500億円がマイナス1.9,500億~1000億円が13.7,1000億円以上が8.0である。全体的に回復基調ではあるものの,売上高500億円未満の企業で新規開発投資が本格的に再開するまでは時間がかかりそうだ。

 新規開発に比べ,運用・保守分野のDIはマイナス基調が続いている(図2)。7~9月に執行した運用・保守投資額を,前四半期(4~6月)より「増やした」企業は7.6%,「減らした」企業は15.4%,「増減なし」は76.3%,無回答は0.7%である。運用保守分野のIT投資DIはマイナス7.8ポイントだった。2009年10~12月期(予測値)のDIもマイナス7.3ポイントだ。

 IT投資額の6~7割は運用保守分野であるのが一般的だ。運用保守分野の緊縮ムードが続く限り,09年内にIT市場全体が回復することはなさそうだ。

2010年3月までに景気が底を打つ

図3●2008年秋以降のプロジェクト凍結・延期状況と再開気運の高まり
図3●2008年秋以降のプロジェクト凍結・延期状況と再開気運の高まり
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 景気が本格的に回復する兆しはまだ見えていないが,新規開発分野のIT投資DIがプラスに転じたように,明るいニュース(Good News)は増えている。図3に示した景況/IT投資動向調査結果もその一つだ。

 2008年9月以降に「システム開発・保守プロジェクトを凍結・延期した」企業は約5割あるが,その約3割がプロジェクトの再開に向けて動き出していることが分かった。企業の情報化投資意欲は,確実に高まっている。

図4●国内における景気後退は、いつ「底を打つ」とみているか(上場企業の社長に調査)
図4●国内における景気後退は、いつ「底を打つ」とみているか(上場企業の社長に調査)
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 経営者の見方はどうか。2009年5月に上場企業の社長480人に「国内の景気後退が底を打つのはいつか」を尋ねたところ,61.9%が「2010年1~3月」までに底を打つとみている(図4)。最も多かったのは「2009年10~12月」(25.6%)。中央値が「2010年1~3月」だ。2009年度の業績予想が減収予想や減益予想の企業でも,5割以上が2010年1月~3月には国内の景気後退が底を打つとみている。すぐにIT投資が回復するのは困難だとしても,回復基調に差し掛かっているのは間違いない。