仮想化によってデータ・センターにサーバーが集中すると,トラフィックも増える。これに根本から対処するには,ネットワークの帯域を広げるしかない。そこで欠かせないのが高速化したイーサネットの新規格である。

 現行のイーサネット規格で最も高速なのは,伝送速度10Gビット/秒の10ギガビット・イーサネット(10GbE)である。これに対して現在,伝送速度を10倍の100Gビット/秒まで高めた100ギガビット・イーサネット(100GbE)の規格策定が進められている。同時に,伝送速度40Gビット/秒の40ギガビット・イーサネット(40GbE)の規格も作られている。両者とも技術仕様は固まっており,最終的にIEEE 802.3baとして標準化が完了するのは2010年6月の予定である。

データ・センター内で爆発するトラフィック

 100GbEがすぐに必要になるのは,大規模な通信事業者やインターネット接続事業者(ISP),サービス事業者だろう。グーグルやヤフーなど,データ・センターを自社で構築する世界有数のサービス事業者は,100GbEの標準化活動が始まった2006~2007年ころから,既に100GbEを利用したいと主張してきた。

 データ・センターで特に帯域がひっ迫しているのは,サーバー・ラックを集約するスイッチや,さらにそれらのスイッチを束ね,上位のネットワークにつなぐスイッチである(図1)。最近の実例では,米フェースブックのデータ・センターが挙げられる。世界中で加入者を増やしているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「Facebook」のシステムがあるセンターだ。

図1●巨大データ・センターで必須になる100GbE<br>巨大なデータ・センターでは,サーバーを収容する10GbEのリンクが数千本となるケースがある。この場合,サーバー・クラスタを束ねるレイヤー3スイッチや,さらにそれをデータ・センター全体で集約するレイヤー3スイッチには,100GbEが必要になる。
図1●巨大データ・センターで必須になる100GbE
巨大なデータ・センターでは,サーバーを収容する10GbEのリンクが数千本となるケースがある。この場合,サーバー・クラスタを束ねるレイヤー3スイッチや,さらにそれをデータ・センター全体で集約するレイヤー3スイッチには,100GbEが必要になる。
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 同社のアクティブ・ユーザー数は,2008年3月時点では6600万人で,1週間に100万人という増加ペースだった。その1年後の2009年3月にはアクティブ・ユーザー数が1億7500万人となり,増加ペースは1日に100万人となった。

 そのデータ・センターで特に帯域がひっ迫しているのは,同社のデータ・センター内でスイッチ間をつなぐ部分である。サーバーは数が膨大で,サーバーからスイッチへの帯域の合計は増える一方。これらが集約された部分,つまりスイッチ間をつなぐイーサネットの帯域がボトルネックになっている状態だという。

 同社ネットワーク・アーキテクチャ・チームのドナルド C.リー氏が2009年7月に行った講演によると,様々な要因からデータ・センター内のトラフィックが急増しているという。一つは,特に同社のSNSのようなサービスに特有な理由だが,膨大な数のユーザーがデータを自身で作り出し,そのデータをユーザー間でやり取りする。また事業者は,データ・センターからユーザーに届けるデータを作るために,データ・センター内でより多くのデータをやり取りすることになる。この結果,データ・センターから外部に配信するトラフィックに比べ,データ・センター内のトラフィックが大きくなるという。

 同社が2010年に開設する計画のデータ・センターでは,サーバーを収容するためだけに,6400本もの10GbEポートが必要になるという。それらを束ねるには,640本の100GbEポートが必要になる。

 その上位にある通信事業者のネットワークでも帯域はひっ迫しており,すぐにでも100GbEが必要な状況にある。コア・ネットワークで使われるルーターは,米ジュニパーネットワークスと仏アルカテル・ルーセントなどが既に100GbE対応製品を提供している。ただ,データ・センター内で利用する比較的安価なレイヤー3スイッチでは,100GbEに対応した製品はない。製品を利用できるようになるのは,標準化が終了する2010年以降になりそうだ。

伝送距離の仕様に合わせて使い分ける

 100GbEおよび40GbEは,最大伝送距離に応じて,それぞれ4種類の仕様が決められている。100GbEは「100GBASE-CR10」,「100GBASE-SR10」,「100GBASE-LR4」,「100GBASE-ER4」,40GbEは「40GBASE-KR4」,「40GBASE-CR4」,「40GBASE-SR4」,「40GBASE-LR4」である。

 データ・センター内での利用シーンを考えれば,たいていは,どの部分にどの仕様を使うかが自ずと定まる(図2)。40GbEは,主要な用途の一つがサーバー向けインタフェースであるため,シャーシのバックプレーン用に最大伝送距離1mの40GBASE-KR4がある。この距離の仕様は,100GbEにはない。

図2●100GbE/40GbEの仕様とデータ・センターでの用途<br>同じ100GbE/40GbEでも,最大伝送距離に応じてデータ・センター内の適切な個所で使い分ける必要がある。
図2●100GbE/40GbEの仕様とデータ・センターでの用途
同じ100GbE/40GbEでも,最大伝送距離に応じてデータ・センター内の適切な個所で使い分ける必要がある。
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