2008年以降,IT産業で最も注目を集めている「クラウド・コンピューティング」。サーバー・リソースやネットワーク・リソースなどサービスを実現する仕組みは一つの大きな“雲”としてブラックボックス化され,ユーザーは必要な機能だけをネットワーク経由で利用できるようになる。

 企業システムのクラウド化の流れに伴い,重要性を増すのが,クラウドの実体であるデータ・センターである。データ・センターには,サービスの要となるサーバー,サーバー同士をつないでネットワークを構成するスイッチやルーターが集積されている(図1)。

図1●クラウドの実体はデータ・センター
図1●クラウドの実体はデータ・センター
クラウドの実体はデータ・センターである。サービスを提供するためのサーバーやスイッチ,それらをつなぐネットワークを作るルーターは,すべてデータ・センターに集約されている。

 これまでも,電子商取引などのWebサイト運営,ASP(application service provider)によるサービス,企業のサーバー集約といった用途の広がりとともに,データ・センターの活用が進んできていた。10年ほど前のデータ・センター設立ラッシュ後,いっときは供給過剰の状態に陥ったものの,この2~3年は各事業者がスペースが足りないと口をそろえるほど利用件数が伸びている。そして今後,“クラウド”という合い言葉とともに,データ・センター利用は一気に加速する。

 重要なのはユーザーのニーズに応えられるだけのスペースやリソースと,それを安定的に運用できる堅ろうな施設を備えていること。データ・センターとしては当たり前の条件だが,クラウド時代になり,サーバーやストレージ,スイッチの集積がさらに進めば,データ・センターに対する要求レベルは今まで以上に高くなる。

 サーバーやスイッチの集積度が上がれば,障害対策や熱対策の難易度も上がる。多数のサーバーやストレージをつなぐデータ・センター内のネットワークも,構成が複雑化する。同時に,大幅に増加するトラフィックをさばき切るだけの性能が求められるようになる。

最新鋭のデータ・センター設立が続く

 こうした状況を裏付けるように,世界有数の大規模サービス事業者が,クラウド型サービスを提供するため最新鋭の巨大データ・センターを世界中で建設し始めている。2008年以降の例では,米グーグルがオレゴン州ダレスに約6400m2,米マイクロソフトがワシントン州クインシーに約4万3700m2,米ヤフーがワシントン州ウェナチー/クインシーに約18万5800m2の巨大データ・センターを構築している。

 これほどの規模ではないが,日本の事業者も需要に応えるべく続々とデータ・センターを建設・開設している。例えば,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)のグループ会社であるNTTアメリカは2009年8月,米カリフォルニア州サンタクララに約1400m2のデータ・センターを開設した。近年ユーザー数を大きく伸ばしているマイクロブログ・サービス「Twitter」をはじめ,同社データ・センターのユーザーの急増するトラフィックを支えるためである。

 こうしたデータ・センターの中身は,技術的に大きな変貌を遂げつつある。クラウド型サービスは,既存の技術をフル活用し,サーバーやスイッチの台数を増やすというアプローチだけでは支えきれない。データ・センターに使う技術そのものを新しくする必要がある。

 既にそうした「次世代データ・センター」向けの技術は登場しつつある。ベンダーは新しい技術を搭載した製品を開発している。同時に,各技術の標準化も進んでいる。