「カネボウ」から「クラシエ」に社名を変更し、持ち株会社クラシエホールディングスの下、医薬品会社と日用品会社とともに経営再建中のクラシエフーズ。食べると身体から良い香りを発する画期的なガム「オトコ香る。」を生み出した。大手に対抗するための勝利の方程式を確立、再建に弾みをつけた。(文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2008年10月号掲載>

プロジェクトの概要
 産業再生機構による経営再建中に約2000億円もの粉飾決算が発覚して上場廃止になるなど、迷走を続けたカネボウ。化粧品事業を花王に売却後、2006年に国内3ファンドの支援体制に変わり、2007年に「クラシエ」に社名を変更した。同社傘下の食品事業会社が大ヒット商品を生み出し、再建に弾みをつけた。クラシエフーズ(旧カネボウフーズ)のガム「オトコ香る。」だ。
 食べて1~2時間すると身体から良い香りがしてくる画期的なこの商品は、体臭を気にする男性や「ちょい悪オヤジ」の心をぐっとつかんだ。一時は品切れ店が続出し、百数十円の同製品はネットオークションで1000円の値を付けられた。
 「オトコ香る。」の成功物語には成熟市場でシェアの小さな2番手グループが勝つためのノウハウが満ちている。経営再建のヒントも隠されている。
食べると身体から良い香りがする「オトコ香る。」が大ヒット。小売店のガムコーナーはラインアップ数の多い大手企業の商品ブランドが目立つが、単品で勝負を賭けた。2008年にラインアップを1つ追加。NEWDAYS新宿西口店で撮影 (写真:山西 英二)
食べると身体から良い香りがする「オトコ香る。」が大ヒット。小売店のガムコーナーはラインアップ数の多い大手企業の商品ブランドが目立つが、単品で勝負を賭けた。2008年にラインアップを1つ追加。NEWDAYS新宿西口店で撮影 (写真:山西 英二)
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 「あまりの反響に、プラ(包装用フィルム)で包んだ箱のまま販売するお店が出てきたくらいです。あんな事態はガム商品ではめったにない」

 「オトコ香る。」を市場に投入した時の様子を、菓子事業部開発グループ課長兼商品開発部課長の亀高邦夫は興奮気味にこう語る。2007年7月に社名をクラシエフーズに変更した同社にとって、カネボウブランドでの最後の大ヒット作となった。

 2006年7月に発売されたこのガムは、生産能力をはるかに上回る売れ行きを示し、3週間で出荷を停止。在庫をためて2週間後に再開させたが、結局8月下旬で出荷を止めた。このわずか数週間で3億円を売り上げ、2007年3月に再登場すると12月までの間に15億円を上乗せし、業界でヒットの目安となる年商10億円を大きく上回った。

 噛んで1~2時間で汗の成分として心地よい香りを発生する同商品は、男性が体臭を気にするトレンドに見事にはまった。黒地に赤い薔薇(ばら)のイラストという、ガムでは非常識なデザインと印象的な商品名が、特に「ちょい悪オヤジ」肯定派の30~50代の遊び心を上手にくすぐったのである。

経営陣や営業サイドは当初、懐疑的だった

 爆発的な人気とは裏腹に、経営陣の事前評価は芳しくなかった。「デザインはあやしいし、名前はメッセージがはっきりし過ぎて買いづらい」ともめ、初年度の目標を4億円と低めに設定したほど。だから生産体制が十分ではなかったともいえる。