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英BTグループ パブリック&ガバメント・アフェアーズ部門 プレジデント ラリー・ストーン |
私はどちらかといえばやや古風な性格だ。毎日配達される新聞の肌触りや感覚が好きで,本も手に持って読むほうがいい。しかし世界は急速に変化している。それを促進しているのが,私が働いているIT業界である。魅力的なディスプレイや端末が矢継ぎ早に発表され,本や絵画などのデジタル化,いわゆる電子図書館プロジェクトを推し進めている。
ただ電子図書館を巡っては様々な課題がある。公的機関と私企業のどちらが進めるのがよいのか。著作権の扱いを尊重すべきなのか,それともアプローチを変えるべきなのかなどだ。
EU主導で電子図書館が始動
電子図書館プロジェクトは,公的機関と私企業それぞれが推進している。公的機関が進めるプロジェクトの代表例が,EU(欧州連合)が主導して2008年に公開した電子図書館ポータル「Europeana」だ。欧州の図書館や博物館,美術館などが持つ,歴史的な書籍,地図,絵画,映画,新聞などをデジタル化し,キーワード検索によって無料閲覧できるようにした。現在約460万点のデータを収容している。
しかし当初は2010年に1000万点を収容する目標を立てており,計画の遅れが目立っている。EUのコミッショナーのビビアン・レディング女史は「EU加盟各国は他国の進歩を見ているだけではなく,合意したことを実行してほしい」と,各国にもっと積極的に協力するよう苦言を呈している。
このEuropeanaのライバルと言えるのが,私企業である米グーグルが2005年から進めている「Googleブック検索」である。米国の主要大学図書館などと提携し,著作権切れもしくは明確でない本1000万冊以上をスキャンし,ネット上で無料で全文検索できる状態にしている。フランスやイタリアの主要図書館と今年の夏ころから交渉に入ったとの報道もある。
しかしこちらも順風満帆とは行かない。一番大きな壁は著作権問題である。全文表示できるのは絶版状態になった書籍に限定しているものの,グーグルは著作者に許諾を得ずにスキャンを進めた。そのため著作権侵害だとして米国作家協会などに訴えられたのだ。2008年秋に和解したが,問題はくすぶったままだ。欧州ではドイツが同国の著作物をGoogleブック検索から除外するよう要請したといった報道もある。
優れた著作が多くのユーザーに触れる機会を増やすため,電子図書館は進展すべきだと私は考えている。問題は,上記の課題をどうクリアするかだろう。私は長年,通信の制度にかかわってきたので,この問題は規制の枠組みを再設計することでクリアすべきと考えている。既存のルールに縛られることなく,これだけの知的財産に簡単にアクセス可能にする制度を設計することだ。上記の課題以外にも,グローバルな情報管理やデータのプライバシ保護の在り方,ユーザーとサービス提供者,著作権者の間の関係作りなども重要なポイントになるだろう。
英BTグループ パブリック&ガバメント・アフェアーズ部門 プレジデント