情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回まで、情報システムの活用を誤るダメな“ユーザー企業”の3つのパターンを紹介しました。「流行に踊る」「業種の枠に固執する」「規模にとらわれて発想する」の3つです。

 今回からは、“ユーザー企業”の置かれた状況別に、ダメな“ユーザー企業”の陥りがちなワナや、あるべき情報化について考察しようと思います。まず、「事業構造を変革せねばならない業種や業態の企業」が、考えるべき情報システム化について考察します。

人口減時代への備えが遅れている業界がある

 事業構造を見直すべき業種、業態、企業は決して少なくありません。日本そのものの構造である人口構成が変わるという少子高齢化や非婚化は多くの企業に変革を迫っているはずです。あるいは団塊世代における消費行動の変化などを推定すれば、さまざまな企業がピンチを迎えると同時に、さまざまな企業がチャンスを迎えるはずです。

 中国をはじめとする新興国の躍進によって、既に多くの製造業は構造変革を進めているところだと思います。総合商社などは20年ほど前に「冬の時代」と言われ、自己変革を続けてきたはずです。

 そんななかで、私が相対的に「構造変革が遅れている」と感じる業種が2つあります。新聞社と生命保険会社です。これらを例に挙げ、こうした企業の経営者や情報化スタッフたちが考えるべき課題について考察したいと思います。

 (実は、この2業種以上に、私が最も「構造変革すべきだ」と考える業種はソフトウエア産業、情報サービス産業、あるいは“システム屋”の産業です。これについては以前の連載コラム「ダメな“システム屋”にだまされるな!」でも書きました。この連載でもいずれ詳しく触れたいと思います。)

高度経済成長期のモデルが行き詰まる

 構造変革「待ったなし」業種の代表例として、新聞社と生命保険業界を取り上げます。いずれも日本国内の人口減少により顧客の母集団が小さくなっていく業種です。それ以上に、20世紀後半に大成功した事業モデルが今、壁に当たっている典型でもあるのです。

 高度経済成長期の日本では、各家庭に毎朝配達される新聞が最大かつ最高の情報入手手段でした。全国津々浦々、新聞販売店の無いところはほとんどなく、新聞が配達されない世帯はかなりの少数派だったはずです。

 各新聞社は発行部数を競っており、「今年はB新聞がA新聞を何万部上回った」といったことがニュースになっていました。ところが、今ではどの新聞社も発行部数を言いはやすことはありません。言うまでもなく発行部数は減少しているのです。そして、新聞が配達されない世帯の占める割合がかなり大きくなっています。

 同様に、高度経済成長期の日本では、社会人デビューと同時に生命保険に加入することが常識的でした。会社の社員食堂には昼食時、保険会社の営業担当者たちが待ち構えており、どの会社の保険に入るかだけが問題であったような気がします。「若いうちに入ったほうが得だ」「途中解約は損だ」という説明以外に印象に残るセールストークはありませんでしたが、それでも誰もが保険に入り、「親孝行したね」などと言われたものです。

 今や、新聞を自宅に配達してもらう人が減ったように、生命保険に入る人も減りました。新聞がテレビやインターネットに浸食されたように、日本の生命保険会社は最初に外資系に浸食され、続いて損害保険会社やその他金融機関などにシェアを奪われています。