シグマクシス 代表取締役 CEO 倉重英樹氏
シグマクシス 代表取締役 CEO 倉重英樹氏
(写真:後藤 究)

「IT投資」という言い方に異議あり──。シグマクシス 代表取締役CEOの倉重英樹氏は,「ITと経営はいまや不可分。ITだけを取り出して投資を検討するのは無意味」と提言する。(聞き手は,田中 淳=ITpro)

日本企業のIT投資の現状をどう見ていますか。

 「IT投資」という言葉はものすごく古いと感じます。ITにお金を使ってリターンを得るというのは,20年くらい前に終わっているのではないかと。そもそも,IT投資と言うときの「IT」とは何を想定しているのでしょう。例えば,紙の文書はIT投資の対象に入りますか,入りませんか。

一般には入りませんね。

 でも,紙は“インフォメーション・テクノロジ”です。ところがITと呼ばれるものの中には,コピーは含まれていないし,紙も入っていない。我々はIT投資という言葉を非常に不確実な意味で使っているのです。リターンうんぬんを言うには,ITの定義がいい加減すぎるのではないでしょうか。

 コンピュータが世に出て70年ほどになります。当初,コンピュータ導入のメリットは合理化でした。高性能で高価なコンピュータが,人間に代わって業務を処理することでスピードを上げるという形です。

 1990年代に入ると,企業はエンタープライズやサプライチェーンの最適化に向かいました。そのために全体を見える化する必要があり,ERP(統合基幹情報システム)パッケージを入れるなどして対応したわけです。

 合理化の時代は,ITの導入に1億円をかけたら,人件費や経費などを3億円削減できます,といった形でりん議書が書けました。しかしERPの導入にあたっては,そんな風には書けなかったはずです。あくまでも全体最適化がどれだけできるかということであって,その最適化は,ITではなくて人間がやるんですから。例外として業務改革プロジェクトでERPを導入した企業では書いていたと思いますが。

確かにリターンという概念ではないですね。

 では今,コンピュータは何に使われているのかと言うと,イノベーション(改革)の支援です。新しいお客さんとの関係作りとか,新しい組織のあり方とか,新しいビジネス・マネジメントのあり方とか。イノベーションとはビジネス・モデルを変えることですから,ここでも論ずべきはIT投資のリターンではなくビジネス・モデルのリターンなんです。

日本企業はITを変革に生かしているのでしょうか。

 米国やヨーロッパの企業に比べると,やや低調だと感じます。日本の経営者にはまだ「ITが分からない」と言う人もいますから。でも,紙やコピーや電話や郵便はどれもITなんです。