本研究所では、日本と海外のIT技術およびその利用方法を比較し、両者の間にある格差について考えている。今回は、米国で30年以上の歴史を持つソフトウエア会社が提供しているCRM(顧客関係管理)ソフトを取り上げる。同ソフトは未だに日本語化はされていない。その理由と、日本市場におけるCRMソフト/サービスを比較検討してみよう。

図1●ACTのWebサイト
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 米国で30年の歴史があるCRMソフトとは、米Sage Softwareが開発・販売する「ACT」である(図1)。筆者がACTを実際に見るために、米国を訪れたのは、今から8年ほど前のことだ。非常に完成されたソフトだった。当時筆者は、優れたCRMシステムを導入したいという企業の依頼を受け、世界中を探していたのだ。そんなときに、紹介されたのがACTだった。

 ACTの最大の特徴は、ある情報にユーザーが注目しているとき、それに関連して必要な情報が、同じ画面内に表示されていることである。例えば、ある顧客に注目したとき、その顧客の過去の担当は誰で、そのときの打ち合わせ議事録と音声記録、会社の住所や電話番号、メールアドレスなどが紐づいて表示される。さらに、似たような案件や営業ステータスがどうなっているかを表示できたり、社内で関わりのある人を探し出したりもできる。

“当たり前“に見える機能が、実はすごい

 ただ、一般的なユーザーからみれば、この特徴が、どれだけすごいのかについては、あまりピンとこないだろう。余りにも、”当たり前“の機能に思えるからだ。しかし、アプリケーションの設計という観点からみたときに、ACTの画面から言えることは、アウトプットを整理して出すために、どのようにデータを入力すべきかを明確に決めているということである。そのことは、情報を整理するために極力入力フォーマットが共通化されていることからもうかがえる。

 ACTでは、基本情報として必要なものは顧客単位でまとまっている。画面下部には、アイコンを用いてすべてのアクションを時系列でみることができる。その内容も、ワンクリックで到達できる。これは、簡単なようで、なかなかできないことだ。データを集めることができたとしても、何と何をつなげるかというデータモデリングが難しいからである。

 情報システムを前にした多くの経営者が、「なぜ私がほしい資料がすぐに出てこないのだ!」と、怒鳴り散らしはしないまでも、心の中で思ったことがあるのではないだろうか。ほしい資料が出てこないのは当たり前で、整理されていないからである。ACTのような機能を提供できないシステムは数多い。

図2●ACTのデモ画面
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 ACTの動作を見れば、情報の集め方を工夫しているソフトだということが分かる。今では、当たり前のように使われている、インターネット環境やマッシュアップといった考え方を採り入れていた。情報のメタデータをうまく持たせる工夫をしているのだと思う。ACTのデモで表示されるのは、まさにマッシュアップといった画面である(図2)。

 このACTの概念は、第5回で紹介したdbmotionとも共通だ。dbmotionも、このACTを多少なりとも参考にしたのではないだろうか?少なくとも筆者には、マッシュアップの基本的な考え方と情報の配置は同じに見える。医療におけるクリニカルパスは、営業担当者の営業フローの考え方で置き換えられるからだ。もちろんこれは、あくまでも推測だ。筆者がdbmotionの開発者であれば、きっと参考になっただろうなという印象である。