セブン&アイ・ホールディングス 村田紀敏代表取締役社長兼COO
セブン&アイ・ホールディングス 村田紀敏代表取締役社長兼COO
(写真:丸毛 透)

 セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド(PB)商品「セブンプレミアム」の売り上げが急増している。低価格のカギはITを駆使した需要予測。村田社長は「景気に関係なく,社会の変化に対応するために定期的IT投資は必要」と主張する。(聞き手は,多田 和市=ITpro「経営とIT新潮流」編集長)

プライベートブランド(PB)商品が売り上げを伸ばしています。

 セブン&アイのPB商品は,品質と価格の両面で評価をいただいております。前年度(2008年度),PB商品だけで約2000億円を売り上げました。今年度は3200億円を目標にしています。

小売主導の生産で破棄ロスをゼロに

 品質を維持しながらコストを下げるために,我々が注目したのは廃棄ロスです。テレビCMを積極的に打っているメーカーのナショナルブランド(NB)商品でも,一番大きなコストは宣伝広告費ではなく廃棄ロスです。

 食品や日用品などの消費財は受注生産ではなく見込み生産ですから,需要の読みを外せば,売れ残りが発生します。売れ残りは,値下げしたり,廃棄したりするわけですが,そうしますと粗利が減っていきます。我々は,コスト削減の面で,そこに目をつけたわけです。

 セブン&アイのPB商品は,一切値引きせずに売り切ることを目標に,コンビニエンスストア,スーパー,デパートが全部参加して企画し,販売しています。自分たちのブランドだという意識を持って商品を作り,それらを売り切る努力をしています。

商品を売り切るためには,正確な需要予測と生産量の管理が必要ですね。

 我々は,グループ内のコンビニ,スーパー,デパートで商品コードを統一して一元管理しています。ですから,グループ全体で,どの商品がどのくらい売れるか,かなり的確に予想できます。

 それから,メーカーに生産を任せるのではなく,我々小売り側が生産の各工程で確認しています。

 消費者のニーズを把握して,生産工程を管理する,ある意味受注生産に近い体制だと思います。PB商品ですからメーカーに生産をお願いするだけでは,プライドがないですよね。商品の企画,生産,販売にまで責任を持って初めて,売り切ろうという努力が出てくるわけです。

商品の需要予測に情報システムが担う役割は大きいですか。

 社会の変化を見るときに,ITを使って全体の商品トレンドを分析するのは確かに重要です。一店舗では変化が小さくて把握できない因子でも,全店データや地域ごとの固まりで見るとある商品が突出しているとか,こういうデータの整理は非常に大事ですからね。システムは,情報を整理する際の大きな武器だと思います。

 しかし,それよりも大事なことがあります。コンピュータが整理したデータを読む力です。

 これは社員に対して常に言っていることですが,我々の情報システムは仮説を検証するためのものであって,仮説を立ててくれるものではない。「この商品を投入するべきだ」とか,「こういう需要がありそうだ」などと,商品選別や数量を工夫するのは人間の仕事です。

製造業などの設備投資低迷でSI(システムインテグレーション)単価が下落しています。今はIT投資の好機と言えますか。

 確かに,SI単価が下落しているという状況はあります。ただし,ユーザー企業としてITベンダーを選定する際に重視するのは利用価値です。単にコストが安く済むという理由ではありません。

 景気に関係なく,社会の変化に対応するために定期的IT投資は必要です。その投資のやり方としては,システム全体を変更するよりも,変化に対応してシステムのパーツを入れ替えていくほうが,コスト・ダウンになります。今後は,システムの大枠を残したままパーツを入れ替えていくという形の投資が主流になるでしょうね。