仮想化技術の導入が進むにつれ,利用企業から「もっと強化してほしい」と強く望まれている分野の1つが仮想環境の「運用管理・監視」だ。ITpro EXPO 2009展示会でも仮想環境向けのツールが多数展示されていた。そのなかでも取材記者の注目を集めたのは,ITpro EXPO AWARDの「@IT賞」を受賞した,三井情報の「Hyper-V品質測定・分析ツール」である(図1)。
@IT編集長の三木泉氏は,「Hyper-V環境の規模が拡大してくると必ず生じるサービス品質管理ニーズに真正面から取り組んだ先駆的なツールであるとともに,操作パネルの操作性,および情報表示の視認性に優れている点を評価した」と@IT賞の選考理由を述べた。
仮想環境で発生した障害の原因を迅速に切り分け
Hyper-V品質測定・分析ツールは,マイクロソフトのHyper-Vで構築した仮想環境と物理環境の両方に対して,稼働状況を一元的に監視・分析するソフトウエアだ。稼働情報を蓄積し,過去に発生した異常も分析できる。仮想環境のサービス品質を維持するために利用するのはもちろん,「ユーザーから障害やパフォーマンスに関する苦情が来たとき,原因が仮想環境にあるのか,それとも別なところにあるのか,すぐに分析して対応できるようにすることが狙い」と三井情報 事業開発本部 新事業開発室チーフアーキテクトの養老利紀氏は同製品の開発意図を説明する。仮想化によって運用が複雑になったと感じている現場のニーズを,的確に製品に反映している。
主な監視項目は,物理サーバーやその上で稼働する仮想マシンのCPU/メモリー/ディスクの使用率,ネットワークとディスクのI/O負荷,ユーザー利用環境との間のping応答時間など。Hyper-V品質測定・分析ツールの監視画面には,これらの稼働情報がびっしりと並んでいる(図2)。「キャラクタが多くて,一見するとメインフレームの画面のように思われるかもしれない」と養老氏は笑顔で話す。これは全体の稼働状況に対する一覧性・視認性を高め,複数の監視対象間で稼働状況を比較しやすくするためのデザインだ。設計者の思い入れがあるという。「物理サーバー→仮想マシン→論理リソース」というように,より詳細な監視情報をドリルダウン形式で表示することができる。
複数の監視項目を,時間軸をそろえて同時に表示・分析できるところも同製品の特徴である(図3)。特定の監視項目がしきい値を超えた監視対象だけに絞って表示すれば,稼働状況の比較や共通する問題の洗い出しが容易になる。稼働情報を時系列で蓄積しているため,過去の特定期間に起こった異常を検索して分析することも可能だ。
オンメモリーのデータベースで軽快なレスポンスを実現
監視ツールとしての使い勝手をよくするために,「動作の“軽快さ”にこだわった」と三井情報の川崎伸悟氏(事業開発本部 新事業開発室シニアシステムアーキテクト)は話す。主に2つの点で動作の軽快さを実現している。
1つは,「監視対象から取得した稼働情報をメモリー上に展開し,瞬時に検索できるようにしたこと。そのためにシンプルなオンメモリー・データベースを独自に開発した」(川崎氏)。Hyper-V品質測定・分析ツールは稼働情報を時系列に蓄積するため,ほうっておくとデータ量が増えすぎてしまうが,メモリー上には現在から数日前までのデータだけを展開するようにしている。
もう1つは,データをコンパクトにして蓄積するため,ツールの動作に必要なリソースを抑えられること。オンメモリー・データベースを使用していながら,必要なメモリー容量はパソコン並みの1G~2Gバイトで済むという。
エージェントレス型のツールなので,監視対象にエージェント・ソフトをインストールする必要はなく,ツールの導入も容易だ。稼働情報はWindows Serverの管理用インタフェース「WMI(Windows Management Instrumentation)」を通して取得する。WMIが提供する多様な情報の中から,100近い項目を抽出・加工している。
Hyper-V品質測定・分析ツールは,三井情報がHyper-V 2.0をベースにサーバーとストレージを組み合わせた「仮想化IT基盤」ソリューションの一部として2009年12月から提供される。単品の監視ツールとしては,2010年初めに出荷する見通し。単品出荷までに,ユーザー・インタフェースをさらに改良するとともに,ユーザーからのクレーム内容に応じた複数の分析用テンプレートを用意する予定だ。