東京メトロ(東京地下鉄)は2009年10月1日から,東京の地下鉄丸ノ内線の主要6駅(東京駅,銀座駅,赤坂見附駅,新宿三丁目駅,新宿駅,中野坂上駅)においてデジタルサイネージ・システム「丸ノ内線ステーションビジョン」の運用を開始した。各駅のホームに65インチの液晶ディスプレイを12台設置している。東京メトロでは,これまで駅の構内に設置していた電照看板やポスターでは扱うことができなかった広告を獲得できる媒体になると期待を寄せる。

 東京メトロが駅のホームでデジタルサイネージを設置する背景には,これまで提供している媒体ではカバーしきれない広告出稿のニーズが出てきたことがある。東京メトロ 関連事業部 広告企画・調整担当 課長補佐の南雲俊通氏は,「広告クライアントから,商品の特性に合わせて朝だけなど好きな時間帯に広告を出稿できないのかという問い合わせが増えていたが,電照看板やポスターでは応えられていなかった」と説明する。今回デジタルサイネージを導入したことで,広告クライアントに三つの好きな時間帯(午前6時~12時,午前12時~午後6時,午後6時~11時)を選んでもらえるようになった。例えば飲料メーカーは,「朝の時間帯はコーヒー」「夜の時間帯はアルコール飲料」と時間帯に応じて広告の内容を変えることも可能になった。

設置には見えない苦労も

 毎日多くの乗降客がある駅を持つ東京メトロは,広告出稿が期待できるデジタルサイネージを設置する絶好の場所を持っている。ただし今回の設置に至るまではいくつか課題があった。

 一つは設置場所である。駅の改札やコンコース,ホームなど複数の場所が候補に挙がったが,選んだのはホームだった。人が立ち止まって動画を視認できることが決め手になった。ディスプレイの設置場所は線路外側の側壁で,ホームで地下鉄を待つ乗客の正面にディスプレイが位置するように設置した。

 設置場所が側壁になったことで,新たな課題が浮上した。それは粉塵や鉄粉である。デジタルサイネージのディスプレイに粉塵や線路が削れて出る鉄粉が入ると故障するからだ。ディスプレイ部分を密封することが粉塵や鉄粉の侵入を防ぐ一般的な方法だが,その一方でディスプレイが放熱しにくくなり,これも故障の原因となる。これはディスプレイ・メーカーと協力してディスプレイおよび筐体の形状を試行錯誤し,熱を逃がしながら粉塵や鉄粉の侵入を防ぐ筐体を開発できたという。

 駅ごとの違いによる苦労もあった。例えばディスプレイを設置する側壁の厚さが駅によって違う場合があり,設置する上で場所を確保するための工事が必要な場合があった。また乗客が待つ位置の天井部分には,ディスプレイで表示する動画の音声を流すスピーカーを設置している。ただし駅の天井部分には様々な機器や配線があり,すべての駅で,乗客が待つ位置の真上に設置できない場合もあったという。