経営コンサルタント
情報システムコントロール協会 東京支部 理事
日本ITガバナンス協会 事務局長
梶本 政利
前回まで,IT投資のフレームワーク(枠組み)である「Val IT」の全体像を説明してきた。今回と次回で,Val ITを使ってどのようにIT投資計画を作成していくかを解説する。今回は,IT投資計画を作成するための10のステップに触れる。
ポートフォリオを作って全体を把握する
IT投資計画を作成するためには,Val ITが提唱するIT投資のポートフォリオのプロトタイプ(原型)を構築する必要がある。システムの状況全体を管理できるようにするのが狙いである。
プロトタイプが出来上がったら,それに基づいて管理しつつ,ポートフォリオの精度を高めていく。若干,遠回りに思えるかもしれないが,長期的に見ればこの形が有意義だと考えている。
ポートフォリオの作成は以下の10ステップで進める。
- 方針の決定,初期の実施体制の確立
- 事業の洗い出し
- システムの洗い出し,過去の修正・トラブル履歴(およびそのためのコスト)の確認
- 現状の測定(短期モニタリング)
- 将来の予測
- システムの貢献度(金額換算した効果,ROIなど)の見積もり
- 撤退限界(条件)の確認,撤退コストと代替手段コストの見積もり
- 優先順位付け(事業に対する必要性,コスト効果などをもとに)
- 全体把握(第1段階のポートフォリオの作成)
- 継続案件,変更案件,撤退案件の選別(業務改善・改革,代替手段への移行,ベンダーとの契約の見直し,その他)
順に説明しよう。
1. 方針の決定,初期の実施体制の確立
まず、今後どのようなビジネスに対する投資を重視するのか,コストダウンと価値創造のどちらに主軸に置くか,といったIT投資に関する基本的な方針を具体的かつ明確に示す。IT投資のポートフォリオにおける優先順位付けは,この基本方針によって大きく変わってくる。
基本方針を作成する狙いは,IT投資に関する全社的なガバナンスを確立することにある。それには経営トップ層が明確に方針を示し,それを周知していく必要がある。
次に,この基本方針に基づいてポートフォリオの原型を作成するためのプロジェクト・チームを編成する。プロジェクト・チームは,与えられた期間内に2.以下のステップを実行するための計画を立て,承認を得た上で行動を開始する。
その際,プロジェクトはあくまで経営の視点に基づいて進めることが大切である。利用部門とシステム部門に対して中立な立場で活動できるようにプロジェクト・チームの体制を作ると同時に,その実行のための権限を与えることが肝要だ。
2. 事業の洗い出し
2つ目のステップでは,事業の洗い出しを実行する。どのような事業を実施しているか,改善すべき事項は何か,事業に関する今後の計画,などを調査してまとめる。J-SOX(日本版SOX法)対応に必要ないわゆる3点セットと呼ばれる文書を作成するわけではないので,それほど綿密に調査する必要はない。
この段階で,情報システムの利用部門にはどのようなものがあるのか,情報システムに関連する問題点や要望なども調査する。ITガバナンスのフレームワークであるCOBITでは,システムの基本要素として「人材」「情報(データ)」「アプリケーション」「システム基盤(ハードやネットワークなど)」を挙げている。これらについて,事業担当者の視点に立って調査していく。