そもそもプロジェクトというものはどんなに綿密に計画を立てていても,さまざまな想定外のことが発生し,予定通りに進まないのが常である。これはRFPプロジェクトにおいても全く同様で,スケジュールを狂わせる要因はいろいろとある。

 その中で,一般的にみて多くのRFPプロジェクトで発生する可能性の高いトラブル要因をいくつか挙げてみよう。また同時にそれらを解決するための対策の一例についても説明してみたい。もちろん,プロジェクトは一つひとつがユニークなものであり,ここであげた問題が常に起きるとは限らない。またその解決案も必ず有効であるとは限らないが,参考にはなるはずである。「「プロジェクト・マネージャの役割」の回で挙げたファシリテーションの対象ごとに分類して解説してみよう。

(1)プロジェクト・チーム内で発生する要因(図6)

図6●スケジュール遅延を招く要因:プロジェクト・チーム内
図6●スケジュール遅延を招く要因:プロジェクト・チーム内

[要因]目的を誤解する
 RFP作成を進めていくうちに,いつしかRFP作成そのものが目的となってしまうことがある。そうなると細かい部分ばかりがどんどんと気になってしまい,時間がいくらあっても足らなくなる。

[対策]メンバーに繰り返し伝える
 目的は最善の調達を行うことであり,RFPはそのためのツールであることをプロジェクト・マネージャ(PM)はチーム・メンバーに対して繰り返し言おう。「我々のミッションは最良のパートナーを見つけること」などのような標語を作ることもおすすめである。

[要因]今どこにいるのを見失う
 RFP作成という作業はそうたびたび行われる仕事ではない。エンドユーザーであれば初めてのことも多く,システム部員であっても慣れていない人も多い。そのような状態だとPMだけが先を見ていて,ほかのメンバーは目先の仕事だけとりあえずやっているという状態になりかねない。自分が今どこにいるのかを見失い,作業の意味が分からなくなってしまうのだ。すると前述の「目的を誤解する」と同じような状況に陥ってしまう。

[対策]全体スケジュールの「地図」を見せる
 この状況を避けるためには,全体スケジュールを用いて,今どこにいて,今やっている作業が次のどこにつながっていくのか,メンバーにきちんと説明してあげよう。今いる場所が分かり,次に山があり,谷があることが見える「地図」があると,メンバーは安心するものだ。

[要因]「兼業」のため時間が取れない
 現実問題として,RFP作成に専任で取り組むことは難しい場合が多い。特にエンドユーザーがチームに参加する場合はなおさらだ。本業に時間を取られてしまい,予定通りに作業が進まないことは多々ある。

[対策]業務のピークを把握する
 PMは,エンドユーザーの本業の業務がピークになる時期をまず最初に把握しておく。決算時期(半期や四半期決算も含め)や営業のかき入れ時など,最初から分かっている業務ピークとRFP作成や提案書評価といった作業ピークが重ならないようにスケジュールを組み立てることが基本である。

 それにより,理想のスケジュールよりも2週間~1カ月程度期間が長くなってしまっても,最初から計画して長い期間でやるほうが,無理なスケジュールで結局遅延してしまうよりずっとよい。また,進ちょく会議や検討会などの会議体はなるべく開催時間や曜日を固定して,「この時間だけは絶対にRFP作成に使う」という,本業とのメリハリがつくような進行を心掛けたい。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO,NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て,ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画,96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング,RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)。