文:吾郷 周三(アビーム コンサルティング)

 2009年3月に「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」(以下「研究会」という)が『内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革 ~信頼される地方公共団体を目指して~』(以下、「提言」という)を公表した。これは地方公共団体における今後の「内部統制」のあり方について提言するものである。

 今後は地方分権が進み、地方公共団体はこれまで以上に主体的で自律的な運営が望まれることになる。その一方で、地方公務員による不祥事や不適正な経理処理が繰り返し発生し、住民からの信頼が大きく揺らいでいる現状もある。地方公共団体による行為に不正や誤りがないように、内部統制を整備し、それらが適切に運用されていることについて、住民をはじめとするステークホルダー(利害関係者)に説明することは、今後ますます重要になるものと考えられる。

内部統制は古くて新しいもの

 内部統制は、これまでになかった新たな概念ではない。地方公共団体の日常の事務・事業の運営において既に内在しているものであり、新たにいちから作るものでもない。

 二千数百年も前の中国で、孔子やその弟子たちの問答や言行をまとめた『論語』に、「過ち」について次の4つの格言がある。

  1. 過ちては則ち改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ(学而第一 八)
  2. 過ちを貳(ふたた)びせず(雍也第六 二)
  3. 過ちて改めざる、是を過ちと謂う(衛霊公第十五 二九)
  4. 小人の過ちや必らず文(かざ)る(言葉で飾ってごまかす)(子張第十九 八)

 いずれも過ちを犯すことは、生来人としてしかたのないことであるにせよ、それを反省し、同じような過ちを二度と繰り返さないことが大切だと説いている。 また、「過ち」への対応如何によって、その人物が信頼に足るかどうかが見極められるとも説いている。

  1. 人の過つや、各々其の党(たぐい=素質)に於いてす。過ちを観て斯(ここ)に仁(仁徳のある立派な人であるかどうか)を知る(里仁第四 七)
  2. 君子の過ちや、日月の蝕する(日食や月食)が如し、過つや人皆これを見る、更(あらた)むるや人皆これを仰ぐ(子張第十九 二一)
  3.  このほか、次のような文言もある。

  4. 内に省みて疚(やま)しからざれば、夫れ何をか憂え、何をか懼(おそ)れん(顔淵第十二 四)

 ここでは、きちんと自らが抱えるリスクを認識したうえで、そのリスクの発現を予防し、問題となった場合にも過ちを認めて正せば、不安を抱いたり恐れたりする必要はないと説いている。

 内部統制は複雑な概念ではなく、その基本は、組織の内部において、過ちを犯さないように事前と事後に行為をチェックすることであり、本人はもとより、他者がダブルチェックすることを求めている。また、そのようにセルフチェックと相互牽制の仕組みが組織内に定常的なルールとして定められ、実際に運用されていることを求めている。 要は、組織として過ちが起きないように、また起きたとしてもきちんと正されるように、日常の業務運営のなかで計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・是正(Action)というPDCAサイクルを回すことが求められている。これまで地方公共団体においては、その予算制度によってか、PDCAサイクルのなかでも「P」と「D」に力を入れ、「C」と「A」がおろそかになりがちであったが、今後はむしろ「C」と「A」に力を入れていく必要がある。