本研究所では、クラウドコンピューティングについて、モバイルソリューションの観点から企業の情報システムを考えます。前回はクラウドと対向する様々なモバイルデバイスに一歩踏み込み、必要な機能やユーザー端末としてIT部門が考えるべきポイントについて、事例を交えて考えてみました。今回は、クラウドコンピューティングの利用に積極的な企業の要件を整理し、導入の起爆剤になるであろうクラウドとスマートフォンとの相性について研究します。

 クラウドコンピューティングを巡る議論は、「どんなものなのか」から「どう使うものなのか」に明らかにフェーズが移ってきていると考えられます。NHKをはじめとするテレビ番組や雑誌記事においても、これまで以上に取り上げられているため、インターネットに詳しくなかった一般ユーザーのレベルでも、「何だかわからないけれども無料で使える」とか「企業システムのあり方が変わるらしい」といったことが話題になっています。

 キーワードという点に限っては、クラウドコンピューティングは一定数以上の層に浸透し始めたといえるでしょう。多少の理解が進んだ結果として、冒頭に述べたように、「どう使えばよいのか」「どのように移行すればよいのか」へと、興味がどんどんと移っているのです。

ビジネススピードの速さがクラウドを求める

 「どう使えばよいのか」「どのように移行すればよいのか」を考える際には、先行事例に学ぶことも多いと思います。筆者が実際にヒアリングしたり情報収集したりした、クラウドコンピューティングを積極的に活用している企業や事業体を振り返ってみると、幾つかの共通点が見つかります。その共通点は、大きく以下の三つに集約されます。

(1)要求されるビジネススピードとそれに応じたスピーディーな実装
(2)業務現場主導/ユーザー部門主導による採用決定と整備
(3)モバイル対応、特にスマートフォン対応を視野に入れた業務基盤整備

 特に(3)は、これまでなかなかクラウドコンピューティングの導入や検討を意志決定できなかった企業にも対応を迫り、結果として企業情報システムのクラウド化を加速する要因になり得るでしょう。

 それでは以下で、三つの要因のそれぞれを詳しく見ていきます。

(1)要求されるビジネススピードとそれに応じたスピーディーな実装

 ビジネスが要求するスピード感に追従するという意味で、クラウドはハードウエア構築が不要なため、最も検討される機会が多いITサービスになり得ます。ビジネスのサイクルが早く、業務現場からの要望によって開発リードタイムが非常に限定的になると、この傾向は顕著になるでしょう。リクルートのHRカンパニーは、こうした観点からクラウドを導入した企業の1例です。

 新卒採用・中途採用に向けた支援事業を展開するHRカンパニーは、「採用成功一貫サービス」というコンセプトを掲げ、クライアント企業の採用活動によりコミットする姿勢を打ち出しています。そうした中で、コミットの姿勢を明確にするために、2009年より「R-SPICE・R-SPICEコンサル」という商品を提供しています。そこに、IT部門に相当するMarketing & Information Technology部門が、同サービスの業務支援システム(以下R-SPICE支援システム)を構築しました。

 R-SPICEは、Salesforce.comとGoogle App Engineを組み合わせたクラウド型アプリケーションです。かねてから業務支援で参画していたブリッジインターナショナル(http://www.bridge-g.com/)が2カ月間で開発・導入したといいます。