東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は,データ放送の強化に乗り出す。2009年7月放送の特別番組「首都決戦2009~東京都議会議員選挙開票速報」で行った「番組一体型データ放送」を,2010年度から本格的に展開する。

 TOKYO MXの番組一体型データ放送が従来のデータ放送と異なる点が二つある。一つ目は,視聴者がテレビリモコンの「d」ボタンを押さなくても自動的にデータ放送コンテンツを画面に表示する「ポップアップ型」を採用している点である。二つ目は,従来のデータ放送のように番組の画面を小さくしてその外側にデータ放送コンテンツを表示するのでなく,番組の画面に文字などのコンテンツをそのまま表示する「オーバーレイ型」であることだ。

狙いはデータ放送コンテンツの活用推進

 TOKYO MXはこの特徴を生かして,2009年7月に都議会選挙で視聴者が自分の選挙区の開票結果の速報をデータ放送で好きなときに確認できるようにした。同社は以前から選挙速報番組で開票情報をデータ放送コンテンツとして提供していたが,「あまり利用されなかった」(取締役編成局長の本間雅之氏)という。データ放送コンテンツを視聴者に活用してもらうため,ポップアップ型・オーバーレイ型のデータ放送を本格展開することにした。

 同社は現在,このデータ放送を今後どのジャンルの番組で採用するかを検討している。例えば朝の情報番組において地域の交通情報などを提供したり,スポーツ中継番組で出場選手やほかの試合の結果を視聴できるようにしたりすることを今後検討する。これ以外にも,「実際にやるかどうか分からないが,映画の放送中に出演者や監督の情報を流すといった使い方ができる」(本間氏)としている。今後,自社の放送番組からこのデータ放送と親和性が高そうな番組を絞り込む。「2010年度の番組一体型データ放送の本格展開に備えて,2009年度中にもう一度,番組一体型データ放送を行いたい」(編成本部編成局局次長兼クロスメディア推進部長の山下学氏)としている。

 TOKYO MXは,ポップアップ型・オーバーレイ型のデータ放送で広告を掲載することも検討している。既に通常のデータ放送でコンテンツとともにスポンサーの広告を掲載しており,スポンサーから要望があればポップアップ型・オーバーレイ型のデータ放送でも同様に対応する。視聴者がチャンネルを切り替えると即座に表示される特長を生かして,新たな収益源にしたい考えである。なお,常時表示という特徴がテレビCMに悪影響を及ぼさないように,テレビCMの放送時はデータ放送コンテンツを一時的に消す。テレビCMが終わり番組本編に戻るのに合わせて,データ放送コンテンツを再び表示する。

 ポップアップ型・オーバーレイ型のデータ放送は従来のデータ放送と同様に,アナログ放送の視聴者は利用できない。この問題については,「TOKYO MXはデジタル放送の視聴者が全体の7~8割を占める」(本間氏)として,大半の視聴者がポップアップ型・オーバーレイ型のデータ放送の恩恵を受けることができるという見方を示した。

視聴者のデジタル化が先行

 TOKYO MXのデジタル放送の視聴者が7~8割程度の水準に達している背景には,同社がアナログ放送とデジタル放送の両方についてUHF帯の周波数を使っていることがある。一方,民放キー局5社は関東広域圏において,アナログ放送ではVHF帯の,デジタル放送ではUHF帯の放送波を親局である東京タワーから送信している。

 地上放送がアナログのみだった時代は,東京都の大半の世帯はVHFアンテナのみを設置していた。TOKYO MXは視聴可能世帯を増やすには,新たにUHFアンテナを設置してもらわなければならず,このことがTOKYO MXが視聴世帯を増やすうえでのハードルになっていた。

 ところが地上放送の完全デジタル化と,地上デジタル放送で民放キー局がUHF帯を使うことになったことで風向きが変わった。東京都でTOKYO MXのデジタル放送の受信可能世帯が増えていった。こうしてTOKYO MXがデジタル放送の強みの一つであるデータ放送の強化に乗り出す環境が整った。