多くのデータセンター管理者,特にIT管理者が見逃しがちなことに,物理インフラの「環境監視」がある。監視の主要な項目としては,温度,湿度,漏水,ドア,煙,振動,露点,エアフロー,監視カメラ,ほこり,化学物質などがあり,表1に示すようにデータセンターにおける脅威の原因になる場合がある。IT管理者はこれらの環境監視をファシリティ担当者だけにまかせてはいけない。

表1●物理インフラの監視項目の例
『APC White Paper #102: “Monitoring Physical Threats in the Data Center”』から引用。
脅威 定義 データセンターへの影響 センサーのタイプ
温度 ルーム,ラック,機器の温度 仕様を上回る高温あるいは温度の急激な変化による機器の故障と寿命の短縮 温度センサー
湿度 特定の温度でのルームとラックの相対湿度 低湿度で静電気が発生することによる機器の故障,高湿度による結露 湿度センサー
液体の漏れ 水や冷却剤の漏れ 液体による床,ケーブル,機器の損傷,CRACの障害 漏水検知ロープ・センサー,スポット漏水センサー
ヒューマン・エラーと不正侵入 作業員の不作為によるミス,悪意によるデータセンターへの無許可または不正な侵入 機器の損傷とデータの紛失,機器のダウンタイム,機器の盗難や破壊 デジタル・ビデオカメラ,モーション・センサー,ラック・スイッチ,ルーム・スイッチ,ガラス破損センサー,振動センサー
煙/火災 電気または資材の火災 機器の故障,資産とデータの紛失 補助的煙センサー
危険な空気中浮遊物 空気中の化学物質(バッテリから排出される水素),ほこりなどの粒子 人体への害,水素の排出によるUPSの機能低下と故障,静電気の増加による機器の故障,ほこりの堆積によるフィルタやファンの目詰まり 化学/水素センター,ほこりセンサー

壁際のセンサーだけでは情報不足

 ファシテリィ担当者は普通,温度や湿度の情報を,サーバー・ルームなどの壁際に設置したセンサーを使って収集する。空調は,その情報を元に自動で調整されている。

 しかし,IT機器の安定稼動を目指して最適な状態を保つなら,サーバーなどのIT機器が実際に吸い込む空気の温度や,ラックの上段・中段・下段における温度分布を見る必要がある。そして,それに合わせて空調,ファンなどを管理することが望ましい。したがってIT管理者も,データセンター内の環境を把握し,IT機器と同様に物理インフラも監視して,IT機器の運用に反映させる必要性がある。

 具体的な例を見てみよう。図1は,あるIT機器(サーバー)における吸気部分の温度と機器内部の温度の関係を示している。左は機器内部のファンが一定の回転速度で稼働するサーバーのグラフ,右はファンの回転速度が内部温度によって変動するサーバーのグラフだ。最近のサーバーは,ファンの回転速度を機器内部の温度によって自動的にコントロールする場合が多いので右側がより一般的といえる。吸気部分の温度によって,ファンの消費電力がどう変化するかも示した。

図1●IT機器における吸気部分の温度と機器内部の温度の関係。『 ASHRAE Thermal Guidelines for Data Processing Environments』を基に作成
図1●IT機器における吸気部分の温度と機器内部の温度の関係
『 ASHRAE Thermal Guidelines for Data Processing Environments』を基に作成

 左のタイプのサーバーでは,吸気温度が上昇すると機器内部の温度もリニアに上昇するが,消費電力は高い水準で推移していることが分かる。一方,内部温度によってファンの回転速度が変動するサーバーだと,内部温度は一定の高い温度を維持しているものの,ファンの消費電力は低い。ただし,吸気温度が25度を過ぎると急速にファンの回転速度が上がって消費電力もうなぎ上りに上昇してしまう。

 このことから分かるのは,サーバーの消費電力を抑えるには,サーバー・ルームの温度(吸気温度)は25度前後が最も適しているということ。加えて,温度の管理を行うのはサーバー・ルームの壁際だけでなく,よりサーバーに近い,ラック前面の上段・中段・下段が適当,ということである。