データセンターでは,常にセンター内のシステムを構成するIT機器(サーバー,ストレージ,ネットワーク機器など)を管理・監視する必要がある。例えば,サーバーなどのハードウエアの死活監視,OS/アプリケーション/プロセス/サービスのステータス・ジョブ管理など,さまざまな管理・監視項目がある。しかし,データセンターのIT管理者は,IT機器の管理・監視だけに満足してはいけない。

 その一番の理由は,多くのIT機器の性能が向上し,想定の範囲を超えた負担を物理インフラに与えるようになってきたからだ。例えば,サービスがフル稼働している際に電源容量不足になったり,サーバー・ルームの急激な温度上昇でサーバーの稼動が不安定になったりする場合がある。つまり,IT機器と同様に,物理インフラも管理・監視する必要性が高くなってきているといえる。

電源から空調まで総合的に管理する

 物理インフラといえるものは何か。具体的には,大・中・小の無停電電源装置(UPS),空調・冷却装置(ラック列型空調,CRAC:Computer Room Air Conditioning),分電盤(壁置き配電装置,ラック列型分電盤),ラックマウント型のインテリジェントPDU(Power Distribution Unit),電流/温湿度/漏水/煙/ラック・ドアなどのセンサーといった機器が挙げられる。

 従来,これらの機器はビルまたはファシリティの担当者によって管理されていた。しかし,物理インフラ機器の台数が増えてくると,各障害に対する対応を十分にシュミレーションしておく必要が出てくる。

 例えば,休日における空調装置のメンテナンスがある。休日だからといって,多少の時間延長や予定変更は問題ないと考えるのは大きな間違いだ。空調装置の停止による温度変化は,絶え間なく連続運転しているIT機器に多大な影響を及ぼす。また,最近のラックは,電源容量に対して搭載できるサーバー台数などを自由に決められる場合があるので,どの程度の電源が使用されているかを常に認識していないと,前述のように電源不足になる可能性もある。

 このようなことから,電力や冷却,環境やセキュリティの観点でデータセンターの物理インフラを管理する「データセンター物理インフラ管理(DCPIM:Datacenter Physical Infrastructure Management)」というコンセプトが生まれている(図1)。電源の障害,UPSのバッテリー劣化による充電不足,空調装置のフィルター劣化による性能低下,高密度なIT機器導入によるホットスポット(熱だまり)の発生など,その変化を見逃さないためだ。

図1●データセンターでは,さまざまな物理インフラを管理する必要がある。これをDCPIM(DataCenter Physical Infrastructure Management)と呼ぶ
図1●データセンターでは,さまざまな物理インフラを管理する必要がある。これをDCPIM(DataCenter Physical Infrastructure Management)と呼ぶ

ビル・システムとの連携も必要に

 データセンターの物理インフラ(DCPI)を考えるに当たって,考慮すべき点はさらに二つある。

 一つは,グリーンITへの対応だ。グリーンITに向けた消費電力の削減は,IT機器の搭載設計と効率的なシステム運用に関係する。つまり,物理インフラの使用状況を正確に把握することは,グリーンITの観点からも必須になる。環境対策における法制化の流れの中で,経営者が望むグリーンIT環境にするためにも,物理インフラの監視と管理は不可欠になっていくだろう。

 もう一つは,ビル管理システム(BMS:Building Management System)との連携だ。BMSには,エレベータやセキュリティなどの設備,送電網,オフィスの空調管理などの管理が含まれる。

 そこで,今後のデータセンター物理インフラ(DCPI)の管理は,これまで独立していたITハードウエア基盤の管理やBMSとの連携を相互に行い,IT管理者でも常に必要な情報を取得し,ファシリティ管理者やビル管理者と十分に情報共有できるようにすることが求められる(図2)。

図2●データセンターの物理インフラ(DCPI)は,ビル管理システムやITハードウエア基盤と連携する必要がある
図2●データセンターの物理インフラ(DCPI)は,ビル管理システムやITハードウエア基盤と連携する必要がある

エーピーシー・ジャパン ビジネス・デベロップメント部/サービス事業部 ソリューションエンジニアリング部
UPSや冷却装置,ラック,環境監視システムを提供するエーピーシー・ジャパンにおいて,データセンターで利用する製品の提案や設計,販売を推進している事業部。ラックの設置や運用ノウハウを持ったメンバーが多く所属する。