2009年11月1日,KDDIとNECは,日本と米国間を結ぶ約9600kmの光海底ケーブル「Unity」の陸揚げ作業の様子を公開した。UnityはKDDIと米グーグル,マレーシアのグローバル・トランジット,シンガポールのシングテル,インドのバーティ・エアテル,香港パックネットの6社が共同で建設する海底ケーブルだ。伝送容量は最大4.8Tビット/秒まで拡張可能である(関連記事)。ケーブルや接続用機器の提供やシステム建設はNECと米タイコ・テレコミュニケーションズが手がけた。

 今回の工事は,KDDIが容量を保有する日米間海底ケーブルとしては,2001年に運用を開始した「Japan-US」以来,8年ぶりの陸揚げ作業である。同日の早朝から昼にかけて実施された作業の様子をレポートしよう。

 工事内容は,沖合い約2kmに停泊している海底ケーブル敷設船「KDDIパシフィックリンク」からケーブルを砂浜に引き上げ,そのケーブルを地下のとう道を通してKDDI千倉海底線中継センター(千葉県南房総市)の局舎まで引き込むというもの。KDDIパシフィックリンクは,KDDIの子会社である国際ケーブル・シップが保有する敷設船である(関連記事1関連記事2)。

日の出とともに作業開始

写真1●ラジオ体操で体をほぐす作業員
写真1●ラジオ体操で体をほぐす作業員
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 作業は日の出とともに始まった。当日の日の出は午前6時。周囲がすっかり明るくなり,海岸手前の広場では朝礼が始まった(写真1)。作業の安全を確認した後は,ラジオ体操のテープが流れ,全員で体を動かした。深呼吸の動作が終わると,実際の作業現場となる砂浜に移動。そこに敷き詰めたブルー・シートの上に整列し,工事安全祈願の儀式が始まった。朝焼けを伴い,太陽がKDDIパシフィックリンクとかぶさるように上ってくる(写真2)。引き込み作業に不可欠な巨大な滑車にお神酒をかけ,作業の無事を祈りつつ海に向かってかしわ手を打った(写真3)。

写真2●朝日を背に作業を進める「KDDIパシフィックリンク」<br>国際ケーブル・シップ(KCS)が保有する海底ケーブル敷設船。もともと北海油田開発のノウハウに基づいて建造された多目的船をケーブル敷設船に改造した。5000km以上の海底ケーブルを収容できる。
写真2●朝日を背に作業を進める「KDDIパシフィックリンク」
国際ケーブル・シップ(KCS)が保有する海底ケーブル敷設船。もともと北海油田開発のノウハウに基づいて建造された多目的船をケーブル敷設船に改造した。5000km以上の海底ケーブルを収容できる。
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写真3●作業の安全を祈る<br>手前で手を合わせているのは,KDDI理事で技術統括本部の渡辺文夫ネットワーク技術本部長。
写真3●作業の安全を祈る
手前で手を合わせているのは,KDDI理事で技術統括本部の渡辺文夫ネットワーク技術本部長。
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 千倉沖2kmで停泊する敷設船からは,ケーブルを引き上げるためのワイヤー・ロープが砂浜まで延びている。前日のうちに海岸から沖合約150mまでロープを伸ばしておき,当日ダイバーが敷設船からのロープを海中で接続したのである。

 当日は時折,南西の強い風が吹き,2m程度の波があったが,敷設船は一定の位置に静止して動かない。ケーブルに余分な負荷を与えないよう,船がGPSで位置情報を取得し,船底に備える3基のスラスター(小型のプロペラ)で同じ姿勢を維持している。

 敷設船から伸びるロープは,砂浜に設置した巨大な青い滑車を使って,海岸線と並行になるように方向を90度曲げられる。その先に着いたフックをショベル・カーに連結して引っ張り上げる。6時30分ころ,ショベル・カーが動き始めた(写真4)。100m,200mとゆっくりと着実に前進していく。

 7時になると,敷設船から実際の光ケーブルの引き出しが始まったとの報告があった。作業は順調で,予定時間よりも少し早いタイミングだという。7時15分には,ロープの途中にあった連結部分を外して2台目のショベル・カーにフックをつないだ。海岸線に沿って,2台のショベル・カーが何度も往復してロープをたぐり寄せるのだ(写真5)。

写真4●ショベル・カーがワイヤーを引っ張る
写真4●ショベル・カーがワイヤーを引っ張る
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写真5●2台のショベル・カーが交互にケーブルを引く
写真5●2台のショベル・カーが交互にケーブルを引く
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