複数の組織が共同で問題解決に当たることで、単一の部署で取り組むより大きな成果を生み出す可能性は高まる。しかし部門横断で会議をしようとすると、ほかの部署への遠慮などからなかなか意見が出ない場合もある。RFID(無線ICタグ)を活用したソリューション提供を手がけるマーステクノサイエンス(東京・新宿)の村上浩代表取締役社長もこうした悩みを抱えていた。

 同社は2008年から、営業や品質管理、商品企画などの担当者が参加する品質改善会議を開いている。同会議には、顧客のクレームに対して様々な立場からの情報や意見を集約して、顧客対応やサービス品質の改善につなげる狙いがある。

 だが2008年の開始当初は「ほとんど意見が出ず、一部の参加者が自説を展開すると皆がそれに賛同して終わり、という展開が続いた」(村上社長)。中途入社の社員が多く、他人の仕事に踏み込まないというムードが強かった。「参加者ごとに発言の数を数える」「発言した人が次の発言者を指名する」といったルールを決めたこともあったが、「あまり効果は無かった」(村上社長)。

図1●議決事項について自分の意向を○×札で表明。その後の意見を出しやすくする効果もある
図1●議決事項について自分の意向を○×札で表明。その後の意見を出しやすくする効果もある
会議の壁に○×の札を常備。会議開始時に参加者が札を取る
[画像のクリックで拡大表示]

 試行錯誤を続けるなかで出会ったのが「○×会議」だ。2008年末にトーマツイノベーションが運営する中堅中小企業の会員組織「イノベーションクラブ」に入会し、「成果の出る会議術」の研修を受講したことがきっかけだった。参加者が○と×の札を使って自分の意思を示すことが特徴だ。

 口頭ではなく、札を使うことで、遠慮や気後れを排して意見を表明しやすくなる。いったん○×で意思を表明してからその理由を述べる、という形にすれば、意見を言うタイミングもつかみやすい。

少数意見の存在を見える化

 村上社長は議決の時だけでなく、会議の途中でもこれを駆使している。例えば2009年6月に開かれた品質改善会議では、ある法人顧客からのクレームに対応する方法を話し合っていた。「その顧客に商品を納入した代理店に任せる」という案と「最終顧客が納得するまで直接フォローする」という2案が出た。しかし議論に加わる出席者は少なく、「最終顧客までしっかりフォローするのが企業の使命だ」という「べき論」を唱える1人の参加者の発言ばかりが目立っていた。

 そこで議長を務める村上社長は、途中でいったん「『対応は代理店に任せる』という案に賛成するかどうか」について全員に○×どちらかの札を上げさせた。すると営業担当者は○、それ以外は×で、×が優勢だった。村上社長がそれぞれに理由を聞いたところ、営業担当者は「既に当社と代理店、最終顧客の3者でミーティングの予定を組んでいる。そこできちんと説明したら、後は代理店を尊重してその判断に任せたい」と説明した。

 重要な情報がこの時点で明らかになったわけだが、実は営業担当者は、会議の途中で一度このことを話している。ただし「お客様とミーティングの予定がある」というあいまいな表現だったので、ほかの参加者は真意を理解できず、その意見を無視してしまっていた。言及した営業担当者も、重要な情報ではないから無視されたのかと思い、その後は遠慮して発言を控えていた。○×札の提示によって、重要な少数意見の存在が見える化され、事実を正しく共有することができた。

○×会議
 ○と×の札を使って会議の参加者が意思を表示する。中堅中小企業向けコンサルティングを手がけるトーマツイノベーションの会員組織「イノベーションクラブ」で白潟敏朗代表取締役社長が教える「会議で成果を出すポイント」の1つ。単純な手法だが少数派意見の存在を見える化でき、その意見相違の理由を進行役がまめに確認することで、一部の人しか知らない重要情報などの発掘につなげられる効果がある。議決に使えば、ほかの人の意見に左右されず、率直に意思表示できる効果もある。