キヤノン電子のように頻繁に短時間の立ち会議を開催し、その日の予定や作業の進捗を報告する取り組みは、ソフトウエアの開発現場などで他社にも浸透しつつある。

 モバイル広告代理店のライブレボリューション(東京・港)は、「スクラム会議」を2006年から導入している。ソフトウエア開発手法の「スクラム」で提唱されたもので、毎日同じ場所で決まった時間に15分以内で開くチームミーティングのことだ。同社は社員数40人で2008年度の売り上げは27億円、2009年度は42億円以上を見込む成長企業。この急成長は広告効果測定ツールなどのシステム開発力に支えられている。同社でシステム開発を担当するアリエスユニットでは、毎朝5人のチームメンバーがスクラム会議を開いている。

図1●毎日のスクラム会議では、立ったまま短時間で情報を共有する(左端が福重リーダー)
図1●毎日のスクラム会議では、立ったまま短時間で情報を共有する(左端が福重リーダー)
共有すべき事柄を4点で定義。ホワイトボードに書き出してある。/週次のミーティングで問題解決に取り組む。スクラム会議と同じ場所にイスを持ち寄る。/トライアルカンパニーのウェブ会議の様子。拠点によっては、ウェブカメラを取り付けたパソコンの前に数人の人だかりができる
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 午前9時50分の会議開始時刻になると、メンバーが壁際に集まって輪を作る。「前回のスクラム会議(前日)以降、何をしたか」「障害はあるか」「次回のスクラム会議(翌日)までに何をするか」「業務知識などで共有すべきこと」という4項目を早口でチームメンバーに説明する。これらの項目はスクラムで定義されているものだ。

 「障害はあるか」のフェーズで、あるメンバーが「サーバーの監視項目が増えすぎて、心理的なプレッシャーが強くなってきました。代替手段はないでしょうか」と発言した。すかさず隣のメンバーが「いくつか知ってるよ。後で説明する」と答える。この場で長々と説明するようなことはしない。「スクラム会議は問題解決ではなく、問題定義の場。解決は別の会議でやる」とアリエスユニットを率いる福重伸太朗リーダーは話す。

重要情報共有はITに任せない

 「次回のスクラム会議までに何をするか」で仲間の仕事の様子が分かるから、手助けが必要かどうかも判断できる。福重リーダーは「寡黙になりがちな開発現場で、直接話す機会を担保し、チームワークや一体感を醸成するのに役立つ」と話す。

 福重リーダーらは技術情報を共有するために、チャットシステムや、技術情報を蓄積するデータベースなども活用している。それでも開発ツールのバージョンアップやバグの情報を入手したメンバーは、翌日のスクラム会議でそれを全員に教えることになっている。メンバーに新技術の導入を促し、「知らなかったから古いツールを使い続けていた」という言い訳の余地を無くす狙いだ。

 「技術情報は仕事の生産性に大きく影響する。開発ツールのバージョンが1つ上がれば、何十行も書いていたプログラムが1行で済んでしまうこともある」(福重リーダー)。成長分野であるモバイル広告の市場は、価格競争も厳しい。生産性向上に結びつく技術をいち早く取り入れられるかどうかが競争力を大きく左右する。

 日次で開くスクラム会議とは別に、イスに座って行う週次のミーティングも開いている。こちらはスクラム会議で挙がった課題の解決を図る場だ。日次と週次の2種類の会議を組み合わせ、生産性向上を追求する。

スクラム会議
 スクラム会議は米国生まれのソフトウエア開発手法、「スクラム」のプロジェクトマネジメントの一部として提唱されている会議手法。スクラムでは少人数のエンジニアがチームを組み、スポーツのチームのように、各メンバーが自由に動きながら、共通のゴールを達成する。毎日決まった時間に決まった場所で「スクラム会議」を行い、「前回の会議以降何をしたか」「障害はあるか」「次回の会議までに何をするか」という決まった質問にのみ回答することを推奨し、短時間で情報伝達の徹底とチームワークの醸成を図る。