写真1●ほぼ満員となった携帯5社パネル討論の会場
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 NTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイル,イー・モバイル,そしてウィルコム。日本のモバイル・ブロードバンドを支えるこの5社の戦略は,日本のITインフラの方向性を大きく左右する。ITpro EXPO展示会2日目に開催されたICTパネルでは,各社の法人担当幹部が,中長期戦略と2010年イチ押しの端末/サービスを討論。2010年の戦術とそれ以降の戦略を対比させた議論から,その可能性と厳しい台所事情が見えてきた。

 ほぼ満員となったパネル討論の会場(写真1)に,イー・モバイル執行役員副社長の阿部基成氏,ウィルコム ソリューション営業本部副本部長の大川宏氏,NTTドコモ法人事業部ソリューションビジネス部長の中西雅之氏,KDDI ソリューション事業本部ソリューション推進本部副本部長の有泉健氏,ソフトバンクモバイル執行役員法人事業推進本部本部長の安川新一郎氏の5氏が参集。モデレータは日経コミュニケーションの松本敏明編集長が務めた。

 この2009年を振り返ると,経営と技術の両面で,モバイル・ブロードバンドを主戦場に5社がしのぎを削った。モデレータの松本編集長はまず,「携帯電話事業者,PHS事業者とひとくくりにするのが難しくなってきている」という問題意識をパネリストに投げかけ,各社の立ち位置を浮き彫りにした。

ウィルコムがXGPによるHDテレビ会議をデモ

 イー・モバイルのポイントは,速度と端末につきる。阿部氏は「2007年3月に3.6Mビット/秒,12月に7.2Mビット/秒,2009年7月に21Mビット/秒と,高速化でリードしてきた」と速度面での強化をアピール。特に上りの速度において「2009年4月に上り5.8Mを提供」と,モバイル・ブロードバンドの普及を牽引したことを強調した。また,サービス開始から約2年半と日が浅いことから「他の大手に比べると色々なソリューションをパック提供できない」という体質を逆手に取り「企業のアプリケーションを“つなぐ”ことに特化」「多様なインタフェースの端末」「MVNOによるコラボレーション」といったメッセージを来場者に投げかける。とどめとしてパネル討論当日に発表したばかりの「Pocket Wifi」をお披露目し,高速・定額・ユニークな端末を印象付けた。

写真2●ウィルコムのXGPによるHDテレビ会議のデモ
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 ウィルコム大川氏は「PHS,3G,そしてXGPの3インフラを構築し,顧客に対して最適なソリューションをワンストップ提供する」とし,中でも上り下りが高速な次世代PHS技術のXGPをアピール。双方向の帯域を活用するアプリケーションとして,日立ソフトウェアエンジニアリングのHDテレビ会議システムを使ったデモを実施。基地局を会場に持ち込み,パネル討論会場,展示会場,そして日立ソフトウェアエンジニアリング屋上の3地点を結んだHDテレビ会議を実施した(写真2)。セミナー室と展示ホールという環境もあってか音声が乱れるなどのトラブルはあったものの,HDテレビ会議のインフラとなり得る回線特性を来場者に訴求していた。

携帯3社はそれぞれ「顧客志向」「ICT統合」「端末と料金」をアピール

 続くNTTドコモの中西氏は,ブランド刷新を狙った2008年からの「新ドコモ宣言」の核となる「顧客との連携」を前面に押し出し,「24時間サポート対応」「エリアの充実」といった現行施策を紹介。2010年にも導入する100Mビット/秒の3.9G技術「LTE(long term evolution)」による通信速度向上をロードマップとして提示した。

 端末面では,NTTドコモは法人市場への適応が容易なオープン端末の強化を進めている段階。「これまで,どちらかというとコンシューマ中心で施策を考えてきた。このため企業向けソリューションを念頭に置くと使い勝手が悪い面があった。その解決策として,最近は2005年投入のSymbian OS端末に加えてBlackBerry,Windows Mobile,Androidと,オープンOSを求めるユーザーの要望に応える形で対応を進めてきた」(中西氏)。さらに「将来はiモード端末とオープンOSのスマートフォンといった端末だけでなく,ネットワーク・サービスを含めて両者を統合し,ユーザーの満足度を高めたい」(中西氏)とする。

 KDDIの有泉氏は,データセンターと固定電話網,移動体通信網を組み合わせた統合ソリューションをKDDIの強みとして説明。「データセンターを活用する“データセントリック”の思想で,モバイル活用からサーバー統合,アプリケーションのデータの集約,さらには国際サービスまで,災害対策などのアウトソーシングという形でワンストップ提供できる」と自信を見せた。

 ソフトバンクモバイル安川氏は,「3番手なので純増にこだわった経営を進めている」と基本的なスタンスを紹介。法人向けでは「iPhone 3GSとOS 3.1で,コンシューマだけでなく法人ユーザーでも“NO.1スマートフォン”として使えるようになった。リモートワイプとストレージ暗号化のサポートでWindows Mobile 6.1が企業利用を伸ばしたように,スマートフォンの本命として日米で支持を受けている」と法人市場でも好調なiPhoneを前面に押し出し,「『Yahoo! BB』からの伝統として,固定・モバイルにかかわらずプライス・リーダーシップをとろうとしてきた。日本で加入者数3番目の事業者としてではなく,スマートフォンでナンバーワン,“アジアNO.1のインターネット・カンパニー”が携帯電話を変えていく」と大戦略を説明した。