パソコンブーム,Webブームなど,開発者を熱狂させるプラットフォームは,ITの歴史とともに変わってきた。最近の関心の的は,米Appleの携帯電話「iPhone」と,米Googleが提供する携帯電話向けOSの「Android」である。開発者が開発したプログラムを,ユーザーが常に持ち歩く端末で世界規模で利用できるプラットフォームとしてiPhoneが注目を集めており,Androidはそれを追撃している。

 これらの端末で当初広く利用されたアプリケーションは,ゲームや,SNSなどのWebサイトににアクセスするための専用アプリケーション,各種情報取得用アプリケーションなど。PCで従来利用できていた何かが“持ち運べて便利”と感じさせるものだった。ところが2009年に入って変化が起きた。飛行機事故がiPhoneのカメラ経由でTwitterで報じられたり,セカイカメラが登場してユーザーが利用したりすることで,これらの端末が実世界とネットワークを結びつきが強くなった。

 このような状況下で,日経ソフトウエアの武部健一記者は2009年10月28日,ITpro EXPO 2009において,「iPhoneとAndroid 拡張現実を実現する端末のプログラミング環境」と題する講演をした。講演で武部記者はまず,同記者が所属する日経ソフトウエアでもiPhoneとAndroidの記事は「よく読まれていて,端末が手元にない読者も興味津々に見える。開発環境が無償なことが原因かも」と述べ,開発者の注目が集まっているとした。

 そして,米Appleの携帯電話iPhoneと,米Googleが提供する携帯電話向けOSのAndroidを搭載した携帯電話を「拡張現実アプリケーションを実現できる端末」と定義し,これら端末の開発者にとっての状況と,産業的な視点における現況を述べた。

 武部記者が指摘したポイントは以下の4つ。(1)iPhoneやAndroid端末が拡張現実を実現するための各種デバイスを備えていること,(2)それらのデバイスを利用しやすい高度なクラス・ライブラリも開発環境が備えていること,(3)iPhoneとAndroid開発環境の相違点と共通点,(4)社会や開発者にとってのこれら端末における将来---。ここではこれらを順に紹介していく。

ARのための各種デバイス,利用しやすいライブラリ

 拡張現実(Augmented Reality,以下AR)は,現実の位置情報や景色などに,電子的な情報を重ねることで,現実の世界を拡張する技術の総称。武部記者は,iPhoneやAndroidのこれまでの携帯電話端末との違いは「実空間とインタラクションできる拡張現実アプリを実現できる端末」にあると指摘した。

 そして「そのために」として,GPSをはじめとする各種デバイスを内蔵しているとした。

 これらデバイスの利用は,開発者から見れば,これまでの携帯電話と異なり,かなり自由で,手軽に利用できる。「高度なクラス・ライブラリを提供しているため,ハードウエアをまったく意識しないで済む」(武部記者)。