船吉 秀人/ウィルコム 技術企画部 次世代企画グループ 課長補佐

 モバイルWiMAXで利用する技術とXGPで利用する技術には,ほとんど差がない。しかも,モバイルWiMAXではXGPよりも高性能なハードウエアが求められる。このため,ほとんどの場合,モバイルWiMAX用に作られたチップセットを流用し,ソフトウエアの変更程度でXGPの端末を作れる。

 XGPとモバイルWiMAXの共通項を見てみると,まず2次変調に同じOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)という変調方式を使っている(図1)。OFDMでは送信時に逆フーリエ変換器,受信時にはフーリエ変換器を使うが,XGPはWiMAXのものをそのまま転用できる。モバイルWiMAXの場合,フーリエ/逆フーリエ変換器を1024個用意しているのに対しXGPでは256個しか使わないので,変換器が足りなくなる心配はない。

図1●XGPの通信機能ブロック図<br>送信機の場合を示した。2次変調処理であるOFDMの回路などはモバイルWiMAXのものがそのまま利用できる。モバイルWiMAXと共用できない部分は多くの場合,ソフトウエアの変更により処理できる。
図1●XGPの通信機能ブロック図
送信機の場合を示した。2次変調処理であるOFDMの回路などはモバイルWiMAXのものがそのまま利用できる。モバイルWiMAXと共用できない部分は多くの場合,ソフトウエアの変更により処理できる。
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 また,日本においてはモバイルWiMAXとXGPのいずれもが2.5GHz帯を割り当てられているため,アンテナやRF(radio frequency)回路なども共用可能だ。

 一方,違いがあるのは,(1)データ符号化などの処理部分,(2)1次変調,(3)発振器──である。まず(1)は,通信路でエラーが出ることに備えて,データを冗長化したり,データの順番を入れ替えたりする処理である。ここはソフトウエアを変更し,モバイルWiMAX用のチップセットに搭載されたCPUまたは外付けのCPUを追加することでXGP用の処理を演算すれば対応できる。

 (2)はモバイルWiMAXでは64QAMまでしか対応していないのに対して,XGPでは256QAMに対応しているという点だ。この部分も,256QAMの変調が必要な場合にソフトウエアで処理するようにすれば対応可能だ。64QAMまでの変調については,モバイルWiMAX用の回路が利用できる。

写真1●NECインフロンティア製の「GX001N」
写真1●NECインフロンティア製の「GX001N」

 (3)はモバイルWiMAXが10.94Hzのサブキャリア間隔を生成できる発信器を使用しているのに対して,XGPでは37.5kHzを生成できる発信器を使用する必要がある点だ。これは発振器の交換で対応できる。発振器は安価なデバイスであり,チップセットの構成は変える必要がないので,この部品交換は簡単である。このように,モバイルWiMAXのチップセットはソフトウエアと簡単な部品の交換でXGPに流用できる。

 実際,WILLCOM CORE XGPで提供しているNECインフロンティア製の「GX001N」(写真1)では,カナダのウェーブサット製のWiMAXチップセットのソフトウエアをXGP用にカスタマイズして使っている。

船吉 秀人(ふなよし ひでと)
ウィルコム 技術企画部 次世代企画グループ
課長補佐
1997年にDDI東京ポケット電話(現ウィルコム)に入社。PHS基地局/端末やそれにかかわるデバイス開発とメール・センターなどのインフラ設備の企画業務に従事。2004年よりXGPの標準規格化ならびに各種実験計画の担当となり,XGPの規格化を推進した。その後,WILLCOM CORE XGPのシステム・デザインを手掛けた。現在,XGPシステム開発の統括管理を担当し,XGP Forumにおいて「XGP2.0」標準化メンバーも務める。