船吉 秀人/ウィルコム 技術企画部 次世代企画グループ 課長補佐

 第2回ではPHSの弱点とされてきた通信速度について説明したい。

 システム帯域が10MHzのXGPシステムでは上りを最大20.8Mビット/秒,下りを最大22.8Mビット/秒としている(図1)。この速度は次のように計算している。まず通信には9MHz幅を使い,これを900kHzで10分割して運用している。この場合,1フレームで上り・下りそれぞれ40PRUが伝送される。

図1●XGPの理論通信速度<br>9MHzの帯域で運用する場合,周波数方向に10分割となる。そのため,上り・下りの各フレームで40PRUを持つ。1PRUで流せるシンボル数は上りで372,下りで408となる。256QAMで変調した場合,1回の変調で8ビットを送れる。また,エラー訂正のために冗長化しているため,これを差し引いて計算すると,上り最大20.8Mビット/秒,下り最大22.8Mビット/秒という理論値になる。ただし,一部のPRUは制御などに使われるため,実効速度はこれよりも小さい値になる。
図1●XGPの理論通信速度
9MHzの帯域で運用する場合,周波数方向に10分割となる。そのため,上り・下りの各フレームで40PRUを持つ。1PRUで流せるシンボル数は上りで372,下りで408となる。256QAMで変調した場合,1回の変調で8ビットを送れる。また,エラー訂正のために冗長化しているため,これを差し引いて計算すると,上り最大20.8Mビット/秒,下り最大22.8Mビット/秒という理論値になる。ただし,一部のPRUは制御などに使われるため,実効速度はこれよりも小さい値になる。
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 また,上りのPRUでは1個当たり372シンボル,下りのPRUでは1個当たり408シンボル使ってデータを伝送する。シンボルとは変調の数のことで,これと変調速度の積が伝送できるデータ量となる。256QAMの場合は,1シンボル当たり8ビットを伝送することができるため,上りの場合は1PRU当たり372シンボル×8ビット=2976ビット,下りの場合は408シンボル×8ビット=3264ビットを含んでいることになる。

 これらが5ミリ秒間隔に伝送され,データエラーを訂正するための冗長化処理が最大で8分の7なので,上り20.8Mビット,下りを22.8Mビットと導き出せるわけだ。上りと下りでシンボル数が違うが,これは上りの場合,複数の端末が同時に通信することに起因している。端末が周波数軸で隣り合ったPRUを使っている場合,それぞれの端末の周波数が機器の特性などによってずれている可能性がある。そこで,900kHz幅のサブチャネルの内側にガードバンドを設けて,これに備えている。下りの場合は,一つの基地局から信号を発信するので,ガードバンドを用意する必要がないため,900kHz全部を使って通信できる。

 また,仕様上はこのように上り20Mビット/秒,下り22.8Mビット/秒だが,一部のPRUは制御用に使われるため,10%程度のオーバーヘッドとなり,実効の通信速度は上り18Mビット/秒,下り20Mビット/秒程度になる。

周波数拡張による速度向上も視野

 XGPの増速の道筋も現在検討中だ。検討中の手法は大きく二つある。一つは通信に利用する帯域を増やすという方法である。現在の運用では,最大で9MHzの帯域を利用して40PRUで通信しているが,XGPの規格では最大18MHzを使い,上り・下りそれぞれ80個のPRUを使うシステムが定められている。この場合,理論最大速度は上りが41.6Mビット/秒,下りが45.6Mビット/秒となる。

 さらに,2010年3月までに公開する予定の次期規格「XGP2.0」では,27MHzを使って120個のPRUを利用する仕様を盛り込むことを検討中だ。この場合,理論最大速度は下り68.5Mビット/秒となる。

 ウィルコムは総務省から2545M~2575MHzの30MHzの帯域を割り当てられており,周波数には余裕がある。ただし,免許を取得しているのは10MHzシステムの運用だ。そのため,20MHzシステムや30MHzシステムの運用については総務省やその諮問審議会などでの協議が必要になる。また,割り当てられた30MHzのうち,10MHzは2014年までは制限付きで運用される。