J-SOX(日本版SOX法)対応初年度を関係者をどうとらえたか。今後解決すべき課題は何か---企業や監査法人,識者の代表が一堂に会し,J-SOX初年度を総括する「第1回内部統制報告制度ラウンドテーブル」を2009年11月5日に開催。J-SOX 2年目以降に向けて活発な議論を繰り広げた。
ラウンドテーブルを開催したのは,日本内部統制研究学会と日本公認会計士協会(JICPA)。J-SOX対象企業,監査法人,識者12人が参加した。企業側として武田薬品工業,野村ホールディングス,旭化成,ミクシィの4社が参加。監査法人は監査法人トーマツ,あずさ監査法人,太陽ASG監査法人,新日本監査法人。ほかに証券取引所,アナリスト,弁護士,学者の立場の各人が参加した。
ほかに金融庁,経済産業省,日本監査役協会,日本内部監査協会と,主催者である日本内部統制研究学会, JICPAの担当者がオブサーバーとして参加した。J-SOXの骨子を作成した金融庁企業会計審議会内部統制部会の部会長である八田進二青山学院大学大学院教授が議長を務めた(写真)。
ラウンドテーブルでは,まず12人が5~6分ずつ報告。続いてオブザーバーがコメントしたのち,全員によるパネルディスカッションを実施した。ここでは企業側の報告を中心に見ていく(表)。
会社名 | 初年度で感じた意義や メリット | 初年度で感じた問題点やデメリット | 今後に向けた課題・要望 |
---|---|---|---|
武田薬品工業 | ・社内に内部統制の重要性を周知徹底できた。特に海外子会社の内部統制整備に有効 ・いくつかの不備を発見,改善できた | ・文書作成に多大な工数・外部委託費用を要した ・監査報告書の入手時期が定時総会直前だった | ・一律に整備を求めると手数がかかりすぎる。特に中堅企業・新興企業の負担が大きい ・日本企業では文書化が進んでいないなど,日米の違いをもっと考慮してほしい |
野村ホールディングス | ・業務の標準化,業務マニュアルの整備,業務フローの改善につながった ・評価範囲の目安や数値基準を示すことで,米SOX法に比べ過剰な負担を防いでいる | ・米SOX法よりも「重要な欠陥」の判断が困難 ・監査コストの増加を含め,経済的な負担が生じた | ・業務の標準化・集中化を進め,コスト低減と内部統制強化を実現する必要がある ・内部監査人の作業結果をより活用して,全体の効率性を向上すべき |
旭化成 | ・業務フローやRCMの作成を通じて,業務の見える化が推進できた ・IT統制で運用面での不十分な点の改善につながった | ・網羅的・形式的な確認作業が多すぎる ・財務報告目的の内部統制に対し,内部監査部門の資源の大幅投入が避けられない | ・「重要な『欠陥』」ではなく「弱点」の採択が妥当 ・結果が財務報告目的の内部統制評価にとどまる点に失望感が認められる |
ミクシィ | ・財務報告の作成プロセスでの誤謬が大幅に減少した ・業務の可視化や標準化により,業務の有効性や効率性の向上につながった | ・形式的で過度に保守的な対応が見られた ・全社統制における評価項目例が抽象的 | ・専門性を有した人材の育成と継続的な教育が必要 ・基準・マニュアルによる形式的な監査でなく,実質的な監査を行っていきたい |