2009年6月30日までに内部統制報告書を提出した企業の中で「内部統制は有効でなかった」と表明した56社のうち,ITを直接の原因としたのは2社。ほかに,システムの改修が間に合わないといった原因を示す企業が数社あった。

 システムが重要な欠陥の直接的な原因にならないものの,改修などの遅れから重要な欠陥の遠因になった企業もあった。

 石油製品の販売を手がけるミツウロコは,2009年3月期から適用になった「リース取引に関する会計基準」に基づく会計処理を誤ったと監査法人に指摘され,リース投資資産や有形固定資産などを修正。この修正を重要な欠陥に当たる項目に挙げた。ミツウロコは新リース会計基準に沿った処理のためにシステムの導入を予定したが,システムの稼働が第4四半期となった。このため新リース会計についての検討・検証手続きを十分にできなかった。これが期末日までに問題を是正できなかった一因としている。

 営業管理ソフトの改修の遅延を重要な欠陥が是正できなかった一因に挙げるのが,ビル管理の東京美装興業である。同社は建築エンジニアリング事業において,工事売上高と完成工事未収入金に関する内部統制の整備が不十分だったことを発見。だが年度末までに是正できなかったために,重要な欠陥として開示した。営業管理ソフトの修正などで期末日までに内部統制を整備しようとしたが,営業管理ソフトの改修が間に合わなかったという。

 重要な欠陥につながらないものの,スプレッドシートにかかわる統制の不備を開示したのが,自動車部品のフタバ産業だ。同社は個別原価計算に関連するデータの処理にスプレッドシートを利用。そこで振替原価について処理の誤りが生じた。スプレッドシートに対するアクセス管理といった統制の整備が不十分なうえ,計算結果の妥当性の検証などを実施していなかったことが原因という。同社は不正融資や不適切な会計処理が重なってJ-SOX対応が完了しなかったため,内部統制が有効かどうか評価できなかったと,内部統制報告書に記述した。

今年度のシステム変更に注意

 重要な欠陥の内容として多くの企業が挙げたのが,経理担当者の知識不足やミスだ()。会計基準の適用を誤るなどして,決算書類の修正につながる例があった。

表●「重要な欠陥」の主な内容。複数の原因を挙げている場合は代表的なものを採用した
表●「重要な欠陥」の主な内容。複数の原因を挙げている場合は代表的なものを採用した
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 ミスの発生原因については,間接部門の縮小が進み,スキルや知識が十分な人員をJ-SOX対応に割けなかったことや,十分に相互監視機能が働かなかったことを理由とするケースが多い。

 初年度が無事に終了したからといって,次年度も内部統制が有効に整備・運用機能するとは限らない。ミツウロコのように,新たに適用となった会計基準の処理を誤るといった可能性があるからだ。

 今年度に新システムの稼働や大幅な改修を予定している企業は要注意である。今回,「内部統制は有効だった」としたトーメンエレクトロニクスは,内部統制報告書の「特記事項」として,同社を含めた連結子会社3社にERP(統合基幹業務システム)パッケージを導入を進めていることを記載。「新システムの導入が財務報告にかかる内部統制に重要な影響を及ぼすことから,内部統制の整備および運用に重要な欠陥が生じることのないよう,考慮した設計を進めていく」としている。

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