ナイジェリア政府は今、蚊帳の普及活動に取り組んでいる。年間感染者が260万人に上るとも言われるマラリアの感染を防止するためだ。同国の5歳未満の子供の死亡原因の第1位でもある。感染症はアフリカ最大の人口1億4000万人を抱えるナイジェリアのアキレス腱だ。

 対策として有効なのが、感染源である蚊を閉め出す蚊帳である。住友化学がナイジェリア国内に工場を建設し、蚊帳の生産、普及を支援している。政府は普及に向けた実態調査を始めたところだ。政府の職員が戸別訪問し、住人に「お宅は蚊帳を使っていますか」と問いかける(写真1)。

写真1●ナイジェリア政府の職員は携帯電話を片手に村々を巡回している
写真1●ナイジェリア政府の職員は携帯電話を片手に村々を巡回している
(写真:データダイン)

写真2●データダインのソフトウエアを使って、マラリア対策の状況を調べている
(写真:データダイン)
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 その調査員の必携アイテムが携帯電話。それもJavaアプリケーションが動くタイプのもの。「5歳以下の子供は何人いますか」「蚊帳はいくつ使っていますか」「昨夜は使いましたか」などと聞き取りをしながら、携帯電話のJavaアプリを操作して回答を入力していく(写真2)。現在は50人の調査員が農村などを回っている。

携帯電話が疫病対策に活躍

 モバイルを利用するのは、交通や郵便、教育など社会インフラの整備が遅れているという事情があるため。蚊帳の件でも利用状況を正確に把握する必要があるが、郵便は届かず、調査票を読めないことも珍しくない。さらに紙は集計に膨大な時間がかかる。今回の蚊帳利用に関する調査の設問は約50。調査票にすると5枚になる。電子化の方がはるかに現実的な選択だ。

 ナイジェリア政府が採用したのは、携帯電話を使うデータ収集システム「Episurveyor」。米国の非営利組織(NPO)「データダイン」が開発した。ナイジェリア以外に、ケニア、ザンビア、ウガンダ、ガーナなど15カ国で利用されている。データダインの創立者であるジョエル・セラニキオディレクターは、「アフリカにはITを使いこなす人材は少ないし、資金も潤沢とはいえない。Episurveyorは簡単に使えて、無料であることが評価されている」とみる。

 アンケートを作る場合はブラウザでEpisurveyorのサーバーにアクセスし、ウイザード形式で設問や回答形式を入力するだけ。するとサーバーがフォームと呼ばれる調査用データを作成する。それを携帯電話で動くEpisurveyorのJavaアプリケーションを使ってダウンロードする仕組みだ。 ITに関する知識がなくても、簡単にアンケートを作れる。回答したデータはサーバーが集計。管理画面上でグラフ表示できるほか、Excel形式のファイルを出力することも可能だ。