顧客もBABOKを活用し始めた。東京都は既に今年4月から、BAを前提にしたシステム開発プロジェクトに着手している。対象は、水道局や下水局などが個別に構築していた電子調達システムの統合プロジェクトである。

 「発注者こそ、BAのスキルを高めなければならない」と、東京都の菊地副参事は話す。「業務要求を要件定義書に落とし込むのは発注者である我々の仕事だが、ITベンダーに頼ってきたのが実情だ。従来型のあいまい開発によるリスクを少しでも抑えるために、BAが重要だと考えた」と、菊地副参事は続ける。

 取り組みの中核となるのは、各局からの業務改善やシステム化への要求を行政改革推進部が取りまとめ、業務改革を進めるうえで必要かどうかを検証するアセスメントである。これまでは要件定義フェーズだけだったが、システム計画フェーズでも実施するように変えた。

 アセスメントの際には、業務改善を目的とするシステムの導入・評価や体制作りのガイドラインを基礎にする(写真)。ガイドラインは東京都が2009年1 月に公開したもので、業務とシステムを最適化するために持つべき視点や業務改善・システム導入の手順、32項目のシステム評価項目などで構成する。

写真●東京都はBABOKの考え方を盛り込んだシステム開発ガイドラインを適用し始めた
写真●東京都はBABOKの考え方を盛り込んだシステム開発ガイドラインを適用し始めた
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 「ガイドラインではBABOKの考え方を取り入れ、以前のようにシステム化ありきでプロジェクトに着手するのではなく、まず組織体制や業務プロセスの見直しを含めて検討することを繰り返し訴えている」(菊地副参事)。

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 BAのスキル向上は、多くのSIerを悩ませてきた、あいまい開発を乗り越えるために有効な手立てだ。

 多くの企業のIT投資意欲が減退するなか、ITサービス業界もなかなか不況を抜け出せていないのが実情である。

 以前のように、案件を多数抱える時代は当面こない。顧客から新たな案件が出てきたら確実に選ばれる、潜在的なシステム需要を掘り起こすといったビジネスの在り方が重要になる。顧客の業務の課題を知ろうとしないSIerでは、こうしたビジネスは困難だ。

 SIerは超上流から顧客の課題を正確にとらえ、真のニーズをつかむために、BAの重要性を浸透させ、定着させる必要がある。そして、これを推進するツールがBABOKである。