BAのスキル強化を狙ってBABOKを活用する場合、ポイントは、システム開発プロジェクトが本来の目的に沿っているかどうかを、企画、設計、開発、運用の各段階で確認し、軌道修正する仕組みを組み込むことにある。

 「BABOKでは、開発超の上流から下流に至るまで、ソリューションの妥当性や実現可能性を確認する作業が規定してある」。BABOKを規定したカナダの国際非営利団体であるIIBA(International Institute of Business Analysis)日本支部の小林正和BABOK担当理事はこう語る。

ビジネス分析の専門家を顧客との接点に

 どのような手法で誰がBAを実施するかについての考え方が各社によって異なるため、BABOKの活用方法も変わってくる。

 ニッセイ情報テクノロジーはBAの役割を担う専門職を新設する。コンサルティング部門の社員を対象に、10月から1年間かけてBAに必要な知識や技術を学ばせる。2010年下期から40人規模のBA人材を顧客先に送り出す計画である。

 同社が育てるBA人材は、顧客の経営層や現場部門の課題を引き出し、各部門の要求を調整しながら、業務要求定義書の作成まで導く役割を担う。案件の獲得に動く営業とも、開発の実務を担うプロジェクトマネジャーとも異なる人材である。

 対象となる保険業の顧客に向け、日常の業務から課題を収集・分析したり、業務改善の提案につながる問題意識を共有したりするために、BA人材は保険業務や法務に関する知識も身に付ける。

 詳細設計や開発の段階に入ってからも、BA人材は密接にプロジェクトとかかわる。「利用部門の機能追加の要求が経営目的と合っていないと判断したら“システムの仕様ではなく業務プロセスの変更で対処すべき”と利用部門に主張することもある」。ニッセイ情報テクノロジーの加藤雅之コンサルティング室室長は言う。

 BA人材の育成に不可欠なものとして同社が策定してきたのが、冒頭で紹介したBA Guide for LIFEである(図3)。赤字案件の原因になりやすい「あいまいな要件定義」のリスクを、システム開発に入る前段階から防ぐプロセスを組み込んだ。

図3●ニッセイ情報テクノロジーはBAのプロセスを標準化し、システム開発プロジェクトに活用していく
図3●ニッセイ情報テクノロジーはBAのプロセスを標準化し、システム開発プロジェクトに活用していく
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 具体的には「企画準備」「企画・方針決定」「業務設計」の各段階で、「ビジネス要求を明確にしたか」、「ステークホルダー(利害関係者)の調整ができたか」、「課題解決策の妥当性や実現性は十分か」といった観点から内容を検証し文書化する。これにより顧客との意識のずれをなくし、要件確定を先送りさせないようにするわけだ。

 実際のBAの作業についてもBABOKを参考にした。例えばステークホルダー分析の作業では、BABOKで規定しているように、ステークホルダーの要求内容を調査して一覧表にまとめる。

 ステークホルダーとは意志決定に影響のある経営陣や利用部門長、システム部門長などのこと。対象者へのインタビューやビジネスの現場の観察を通じて、要求を引き出す。