情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 2009年のIT(情報技術)業界の流行語は「クラウド・コンピューティング」です。

 複雑で増殖を続けるインターネットを、図を描くときに雲(cloud=クラウド)のような絵柄を使うことが語源のようです。同時に、世界中どの場所にも雲があるように、世界中のどこからでも情報システムを利用するといった意味が込められているのでしょう。IT関連の技術者、あるいは、私が“システム屋”と呼ぶITベンダー、システム・インテグレーターなどはこぞって「クラウドだ」と熱弁をふるっている様子です。

 私は、2009年10月まで33回にわたって連載コラム「ダメな“システム屋”にだまされるな!」を書き、“システム屋”にまつわる様々な問題点を指摘してきました。

 今度は、「クラウド・コンピューティング」にまつわる現象を、情報システムの利用者側、すなわち、ユーザーの立場から見てみたいと思います。具体的には、情報システムを企業経営に生かせない「ダメな“ユーザー企業”」のパターンを以下で3つ説明したいと思います。

流行に乗ることで競争力が付くケースはまれ

 IT業界で流行したキーワードは過去にも多数ありました。戦略情報システム、システム・インテグレーション、マルチ・ベンダー、ダウンサイジング、アウトソーシング、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング=統合基幹業務)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=顧客情報管理)、SFA(セールス・フォース・オートメーション)、電子商取引、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などなど。

 これらの流行の中で、「いち早く着手したので相対的競争力が強化できた」あるいは「乗り遅れてしまったので相対的競争力を失った」という経験があるかどうか、まず、思い返してほしいと思います。ごく少数の例外的な企業を除けば、流行に飛びついた成功体験も、乗り遅れた失敗体験はほとんどないものと想像します。むしろいち早く飛びついた結果、火傷(やけど)をしたといった失敗体験のほうが多いぐらいではないでしょうか。

 もちろんこれらの概念や、具現化した製品に意義があり、効果があるものは多く、今では常識となっているようなものもあります。ここで問題提起したいのは、主に米国発のこの種の流行に、“ユーザー企業”はどういった態度で臨むべきか、ということです。