セブン-イレブンのおにぎりは、年間10億個を販売する看板商品だ。2001年に取り組んだ「こだわりおむすびプロジェクト」では、目標とする「おいしさ」の基準を数値で共有する開発手法を確立した。現在のチームMD(マーチャンダイジング)にこの手法が生かされる。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2006年1月号掲載>

プロジェクトの概要
 セブン-イレブンの看板商品であるおにぎりは、ここ数年で大きく変容を遂げた。その発端が、2001年春に発足した「こだわりおむすびプロジェクト」。価格訴求から価値訴求へと政策を大きく転換し、従来の2倍に相当する200円という高級おにぎりの開発がスタートした。
 メーカーと共同で独自商品を開発する「チームMD(マーチャンダイジング)」はセブン-イレブンが得意とするところだが、こだわりおむすびプロジェクトは別動隊として立ち上がった。プロジェクトの中心となった人物が、十数年にわたっておにぎりの開発に携わってきたシニアマーチャンダイザー(当時)の井阪隆一である。テスト販売を目前にして製造設備がうまく動かず、メンバーが青ざめた一幕もある。「おいしさ」を感じる人の味覚を数値化する開発手法を取り入れたことが、実現不可能に見えたプロジェクトを成功へ導いた。
10年以上、おにぎりの開発に携わってきた井阪隆一取締役。おにぎりだけでなく、麺や調味料といった分野でも新しいアイデアが今後も目白押しだという (写真:的野 弘路)

 話は1999年の春にさかのぼる。当時、セブン-イレブン・ジャパンのシニアマーチャンダイザーとして、冷やし中華の開発に当たっていた井阪隆一は苦戦を強いられていた。発売日が刻一刻と迫るなか、会長の鈴木敏文からなかなかゴーサインを得られずにいたのだ。

 何度も試作しては鈴木のところへ持っていき味見してもらうものの、努力もむなしく却下され続けた。気づけば、なんと“13連敗”というさんざんなありさまだった。万策尽き果てた揚げ句、同じ試作品を別の日に出してみたこともある。だが、結果は変わらなかった。追い込まれた井阪はついに音をあげた。

 「もうギブアップです。会長がおいしいと思われる冷やし中華の店を教えてください」

 鈴木から聞いた店の冷やし中華を食べてみた後に作った試作品で、ついに商品化が認められた。何度挑戦しても駄目だった井阪が、鈴木がおいしいと言う冷やし中華を食べただけで、それまでと違うものを作れたかといえばそうではない。実は、開発方法そのものを変えていた。

味の評価基準を数値で統一

 おいしいかどうかを客観的に判断するために、味を数値で評価するようにしたのだ。冷やし中華の場合は麺のコシが決め手になると考え、麺の硬さと弾力でコシを表すことにした。粉の配合や打ち方を変えながら、試食した店の麺の硬さと弾力に近づけていった。これが、13連敗を脱した秘けつである。なぜ、井阪は数値を活用したのか。