私的録画補償金制度におけるデジタル放送専用の録画機(つまりアナログ放送は録画しない装置)の位置付けを巡る著作権関連団体と家電メーカー/団体の論争の場は法廷に移る見通しになった。私的録画補償金の徴収・分配業務を手がける団体である「私的録画補償金管理協会(SARVH)」は,デジタル放送専用録画機の補償金を期限までに支払わなかった東芝を相手取り,補償金の支払いを求める訴訟を起こすことを決めた。東芝は2009年2月に発売したデジタル放送専用録画機の支払い期限(2009年9月30日)が過ぎた後も補償金をSARVHに納めていない。「デジタル放送専用録画機が補償金の対象になるか疑義がある」というのがその理由である。

補償金制度に組み込まれている家電メーカー

 現行の補償金制度においてSARVHは,家電メーカーの協力を得て消費者から補償金を徴収している。家電メーカーは録画機器の製品価格に補償金を上乗せして販売し,消費者から規定の金額を回収する。その後,業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)を通じて,SARVHに補償金を納める。SARVHが補償金を徴収するうえで,家電メーカーは重要な役割を担っている。

 文化庁は2009年9月に,「デジタル放送専用録画機は補償金の対象になるか」というSARVHからの問い合わせを受けて,「対象になる」と回答した。これに対してJEITAは,このような回答に至った経緯を文化庁に問い質すべく照会状を送付した。文化庁がJEITAに回答を提示したのは,東芝のデジタル放送専用録画機の支払い期限である2009年9月30日だった。SARVHによると,「東芝から『文化庁のJEITAに対する回答を踏まえて返事をする』という連絡が来た」という。

 東芝は,デジタル放送専用録画機以外の製品の補償金については,引き続きSARVHに支払いを行っている。このような事情もありSARVHは,支払い期限が過ぎた後も2週間程度,デジタル放送専用録画機を支払うかについての東芝からの回答を待った。2009年10月15日に東芝から回答が来たが,その内容は「これまでと同様の主張を述べたものだった」(SARVH)という。

 私的録画補償金制度の法的根拠は著作権法であり,著作権法を所管する文化庁が「デジタル放送専用録画機も対象」と判断を下したことで,「著作権者,実演家,レコード製作者のために私的録画補償金を受ける権利を行使して権利者に分配する」ために設立されたSARVHは,東芝から補償金を徴収するために断固たる措置を取らざるを得なくなった。SARVHが2009年10月21日の理事会で東芝を相手取った訴訟を起こすことを可決した背景には,このような事情がある。

 今回の理事会でSARVHは,家電メーカーがデジタル放送専用録画機に掛かる補償金を支払わないケースに対するSARVHの今後の対応についての決議も行った。「デジタル放送専用録画機の補償金を支払わないケースが新たに出た場合,今回と同様の措置を行う」ことを可決した。2010年3月末には,パナソニックなどのデジタル放送専用録画機に掛かる補償金が支払い期限を迎えることになっている。仮に2010年3月以降に家電メーカーが今回の東芝と同じような対応をした場合,SARVHは訴訟に踏み切ることになる。SARVHはこれまで,まずは家電メーカーの態度を見守るという「待ち」の姿勢から一変することになる。

 SARVHは,東芝の最終的な意思を確認するため,同社に書面を送付した。現在その返事を待っている状態である。東芝は今後について,「まだ書面は届いていないが,引き続きSARVHとの話し合いを続けたい。デジタル放送専用録画機が対象になることが明確になったら,メーカーとしての協力義務を果たしたい」(10月22日のコメント)としている。

文化庁は「回答は撤回しない」

 文化庁の「デジタル放送専用録画機は補償金制度の対象になる」という判断については,JEITAや主婦連合会などが声明を発表,いずれも文化庁に対して,「『対象になる』という回答を撤回して欲しい」と要望している。これに対して文化庁は,「回答を撤回する気はない」とコメントしている。

 補償金制度におけるメーカーの協力については,著作権法(第104条の5)で,「補償金の対象となる機器などのメーカーは支払いの請求およびその受領に関し協力しなければならない」と明記されている。SARVHと東芝の間でこのまま問題が解決しない場合は,補償金の対象となるかどうかの最終的な判断は裁判所に委ねられることになる。