ファシリテーション・テクニックを極める当研究所。現場で培ってきた数々のテクニックやノウハウの中から、即効性があるツールを紹介しています。第17回と第18回は、「ファンクショナリティ・マトリクス」です。上流工程における要求仕様の範囲や優先度における、“あいまいさ”を排除するための強力な実践的ツールです。今回は、ファンクショナリティ・マトリクスの作成手順を紹介します。

 前回は、「ファンクショナリティ・マトリクス(FM)」とは何かを紹介しました。今回は、FMの作成のアプローチ(手順)を具体的に紹介します。

 前回説明したとおり、システム機能の優先順位付けにおける評価の観点は次の三つです。

・ビジネスベネフィット(BB:Business Benefit)
・技術的難易度(TC:Technical Complexly)
・組織受入態勢(OR:Organization Readiness)

 これらの三つの観点について、High、Medium、Lowの3段階で評価基準を定義し、評価付け(レイティング)を行います。ここでのポイントは、この評価基準の定義とレイティングの作業を、経営層、業務部門、情報システム部門の三者を巻き込んでコンセンサスを得ながら進めることです。

 図1は、評価基準の定義とレイティングを誰が行うかを示した一例です。この例では、業務部門はビジネスベネフィットと組織受入態勢の評価を担当し、技術的難易度は情報システム部門のみが評価します。

図1●評価基準の定義、および評価(レイティング)を行う役割の例
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 そして、関係者の納得感が得られるような役割分担をあらかじめ設定し、評価基準の定義とレイティングを行う会議(セッション)を開催します(図2)。

図2●三つの観点についての評価基準の例
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 評価基準は一度決めたら終りではなく、レイティング後の全体のバランスを見て適宜、見直すことも必要になります。極端な例ですが、すべての機能のビジネスベネフィットが「High」と評価された場合は、基準の定義が適切でない可能性があります。レイティングを進める過程で適宜、評価基準を見直しつつ進めるのがよいでしょう。

 特にビジネスベネフィットは、プロジェクトのゴールと直結するものが「High」になるべきです。単純な効果の大きさだけで基準を設けるのではなく、プロジェクトのゴールに照らし合わせ、メリハリのある基準を設定することが、この後の絞込みで威力を発揮し、短期間でのシステム構築を実現させます。

 例えば、図2の評価基準の例では、「業務負荷を大きく削減する」は「Medium」、「CS向上に大きく貢献する」は「High」と設定しています。これは、このプロジェクトのゴールに「CS向上」を第一に掲げているためです。例え業務負荷の削減に大きく貢献したとしても、このプロジェクトにおける優先度としては「CS向上」が優先される訳です。