IT業界で仮想化というキーワードを聞かない日はないほどだが、実際に仮想化技術を活用したビジネスは、まだそれほど多くはない。

 こうしたなか、中堅ITサービス会社のアイネットは、仮想化コンサルティングを手掛けるヴイエムネットと提携し、仮想化システムの設計や構築、運用・監視、さらにはプライベートクラウドの構築を含めた仮想化事業に乗り出した。

 アイネットはこれまで、自前のデータセンターを活用したアウトソーシング事業を展開してきた。アウトソーシングの効率化には、運用しているサーバーの統合など、さまざまなスキルが必要になる。ここで培った運用管理のスキルが仮想化事業にも生かせると判断し、準備を進めてきたのである。

 過去1年の間に、アイネットは仮想化関連の技術者を育成。仮想化システムの運用代行の拠点になる仮想化オペレーションセンターを今年10月に設置したばかりだ。

 アイネットは、独立系のITサービス会社という立場を生かし、一般企業に販売するだけでなく、地域のデータセンター事業者やソフト会社と協業し、仮想化事業を推進していく。

 具体的には、地域のデータセンター事業者に対して仮想化システムの構築から運用を代行するサービスを提供する。ソフト会社などには、いわゆるPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)として、仮想サーバーを、開発環境として使えるようにする。

 データセンターを1カ所しか持たない事業者が、遠隔地のデータセンター事業者のコンピュータ資源を利用できるようにする。ディザスターリカバリのニーズなどに対応できるようにするためだ。

 他のデータセンター事業者の空いているコンピュータ資源を有効活用できるようになれば、データセンター事業者は設備投資を抑えることが可能になる。コスト削減につながる。

 将来は地域のデータセンター事業者を結び、仮想化を利用したコンピュータ資源の最適配置、つまり自動的に資源を貸し借りできるようにすることも想定している。それぞれのデータセンターを統合することで、いわば巨大な“バーチャルデータセンター”を、仮想化技術のノウハウを軸にしてアイネットが構築しようというのだ。

 この実現のため、既に数社のデータセンター事業者と実証実験を開始しているという。

 アイネットの田口勉常務は「仮想化に挑戦したいと考えている地域のデータセンター事業者、ソフト会社は少なくない。地域のデータセンター事業者やソフト会社向けにサービスメニューをそろえれば、率先して乗り出そうとするはずだ」と話す。地域のIT産業の活性化を促せれば、アイネットにとってのビジネスチャンスが広がるだろう。

 仮想化技術を利用した事業は今まで、どちらかといえば大手ITベンダーが中心になって進めてきた。中堅のアイネットが取り組んで成功するかどうか疑問に感じる点もあるが、アイネットと提携したヴイエムネットの津村英樹社長は、大手ではなく地方の企業と協業するからこそうまくいくのだと指摘する。

 大手メーカーや大手のITサービス会社にとって、仮想化の普及は自社の収益減につながる面がある。

 効率的な利用が可能になるので、仮想化技術を使えば、サーバーの販売台数が減りかねないからだ。サーバーの販売台数が減れば、保守・運用サービスも減少するはずだ。

 また地方には仮想化技術者はほとんどいない。アイネットが育成してきた技術者のスキルは地方でこそ強く求められている。

 地域のデータセンターやソフト会社が、地域企業の視点に立って仮想化事業を展開すれば、大手ITベンダーや大手ソフト会社にはできなかった新たなニーズが掘り起こせるに違いない。さまざまな可能性を秘めるだけに、アイネットの今後の事業展開に注目したい。