マイクロソフトは約3年ぶりになる新たなパソコン用OSの「Windows 7」を市場に投入した。9月1日に法人向けのライセンスの販売を開始し、10月22日に一般向けのパッケージ製品の出荷を始める。

 「Windows 7に関連した製品やサービスによるパートナー企業の売り上げは、2010年末までに2兆3000億円規模になる」。

 マイクロソフトの樋口泰行社長は9月1日の法人向けボリュームライセンス発表会の席上で、こう話した。同社は、企業向けライセンスの販売開始を皮切りに、市場へ攻勢をかける。

高性能と互換性の高さを訴求

 Windows 7は、現行のWindows Vistaへの不満解消を重視して開発されたOSである。中川哲コマーシャルWindows本部本部長は、「これまでのどのWindowsより高品質だ」と自信を見せる。同じLonghornカーネルを利用しているが、処理性能や互換性の高さはVistaを上回る(図1)。

図1●Windows 7の主な特徴とWindows Vistaとの違い
図1●Windows 7の主な特徴とWindows Vistaとの違い
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 例えば、Vistaでは40.17秒かかっていた起動にかかる時間が29.19秒になった。メモリーの利用量を減らしたり、ディスクI/Oやレジストリへのアクセスなどにかかる処理を高速化したりした結果だという。

 接続していないLANポートやBluetoothなどの管理のためのサービスを起動させない機能などで、消費電力も低減。マイクロソフトによれば、2006年以降に購入されたほとんどのパソコンで、Windows 7の動作が可能だという。

 調査会社のIDC Japanによると、この条件を満たすパソコンは、法人向けだけで約1820万台に上る。「パソコンの買い換えだけでなく、OSのバージョンアップビジネスにも大きなチャンスがある」と細井智コマーシャルWindows本部プロダクトマネジメント部シニアエグゼクティブプロダクトマネージャは話す。

 Windows 7の販売がもくろみ通りに進むかどうかのカギが、Vistaの1世代前のOSで、最も企業に普及しているWindows XPとの互換性だ。

 まず、ハードやソフト会社に強く働きかけた。4800製品のソフトと9000強の周辺機器が既にWindows 7に対応済みだ。

 一般出荷の開始までには、「Vistaを発売した当時の3~4倍の製品が検証済みの状況になるだろう」と細井シニアエグゼクティブプロダクトマネージャは話す。

 企業が独自に開発したカスタムアプリケーションに対しても、マイクロソフトは手を打っている。個別にアプリケーションの互換性を検証し、移行するセンターをソリューションプロバイダと共同で立ち上げた。

 狙うのは、パソコンを2500台以上抱える大企業だ。既に、NECやNTTデータ、富士通といったパートナー企業5社が検証センターを設置している。

 「バージョンアップに戸惑う企業は、大幅に減るはずだ」と細井シニアエグゼクティブプロダクトマネージャは話す。それでも解消できない問題に対しては、Windows 7にWindows XP Modeという機能を搭載。Windows 7上に仮想のXP環境を構築できるようにした。XP向けに開発したほとんどのアプリケーションを、Windows 7でそのまま利用できる。

目玉はやはりセキュリティ

 品質向上に時間を費やしただけではない。Windows 7ではセキュリティやモバイル環境向けの機能を強化した。

 USBメモリーなどのリムーバルディスク内のデータを暗号化する「BitLocker To Go」や、VPN(仮想施設網)なしで社内LANにアクセスできる「Direct Access」などがそうである。

 これらの機能を活用するためには、Windows Server 2008など他のマイクロソフト製品と連携させたソリューションの提供が不可欠だ。マイクロソフトはパートナー企業を巻き込み、ソリューションを増やし、Windows 7の企業への浸透を図る。

 BitLocker To GoやDirect Accessなどの機能を生かしたソリューションを開発しやすくするため、同社は、在宅勤務やテレワーク、コンプライアンス(法令順守)の3種類のテーマに即したひな型を用意している(図2)。

図2●Windows 7 拡販に向けた主なパートナー支援策
図2●Windows 7 拡販に向けた主なパートナー支援策
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 ひな型に基づいてソリューションを開発したパートナー企業は10数社に上る。今後、Windows 7向けのプログラムに加入したパートナー企業には技術資料や販促ツールと共にひな型を配布する。マイクロソフトは、2010年6月末までにソリューションを提供するパートナー企業の数を50社前後に拡大する考えだ。

 互換性の検証センターについても、希望するパートナー企業があれば、立ち上げを支援する。マイクロソフト社内のコンサルタントや技術者が得たノウハウをパートナー企業に提供する。

 販売店向けには、早期導入ユーザー向けの優待価格を用意した。2010年2月まではWindows 7へのアップグレード割引キャンペーンも実施。2万2600円(参考価格)を1万9800円(同)に値下げする。

1年以内に2割弱の普及を目指す

 マイクロソフトは、1年以内にWindows 7の企業での利用率を2割弱に上げることを目指す。

 XPの普及率でさえ、8年で8割弱で、出荷1年後にはまだ1割に達していなかったという。それでも「ユーザーからもパートナーからも好感触を得ている。達成は決して難しくない」と細井シニアエグゼクティブプロダクトマネージャは言い切る。