世界のサーバーで1位と2位を争う米IBMとヒューレット・パッカード(HP)が、米オラクルによる米サン・マイクロシステムズの74億ドル(1ドル=95円換算で7030億円)買収騒動の影で、サンから顧客を奪っている。米IBMは、今年の上半期にサンからIBMへのサーバー乗り換えが170件あり、第2四半期は第1四半期の2倍だと発表した。買収が報道されてから、サンの顧客は明らかに動揺し始めている。HPは100件以上、サンの顧客を獲得したとコメントしている。

 コモディティサーバービジネスの世界ではそれほど大きな数字ではないように見えるかもしれないが、メインフレームと同様に高額で利幅が大きいハイエンドUNIXサーバーの世界では、特筆すべき件数だ。顧客を囲い込めるので、これまでベンダーを変える顧客は、ほとんどいなかった。

 米IDCが9月2日に発表した、サーバー市場全体の2009年第2四半期の出荷金額は、前年同期比で30.1%減だった。各ベンダーともマイナスになっているが、サンは同37.2%減と、他のベンダーよりも傷口が深い。

 サンの不振を無視できなくなっていたのか、オラクルのラリー・エリソンCEO(最高経営責任者)は、「今後もサーバー事業を維持する方針で、SPARCへの投資は増やす」と述べる。汎用的なサーバーとはいえないが、9月15日(米国時間)には、サンと共同開発したアプライアンス製品「Sun Oracle Database Machine」を発表し、買収効果の一面を示した。

 オラクルがハードのビジネスを本気で拡大する方針なら、製品のロードマップを明示するのは、早ければ早いほどいいはずである。しかし、サーバーとは違う分野で買収が厳しく審査されているから、話はやっかいだ。

 オラクルは4月20日のサンと合意後、買収を早々に完了させたがっていた。だが米司法省は、最初の調査を終えた段階で承認しなかった。オラクルによると、理由はJavaプログラム言語のライセンス供与にあるという。IBMなどオラクルのライバルは、Java技術を多く使用している。オラクルがJavaの支配権を握れば、IBMなどのライバルは不利になる。だが、「オラクルがJavaを支配しようとすれば、逆にJava陣営が分裂し、Javaの価値が低下する。支配は自滅につながる」というオラクルの主張を司法省が受け入れ、8月20日に買収は承認された。

 これを受けてアナリストたちは、サンの買収は欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会で難なく承認されると予想していた。ところが同委員会は9月3日、徹底的な調査を開始すると発表、オラクルのサン買収に障壁を築いた。 

 焦点とされるのは、データベース(DB)最大手のオラクルと競合する有力なオープンソースDB、MySQLの行方である。MySQLは海外の同名企業が開発し、オープンソースとして公開された。この企業をサンが買収していたのである。オラクルによるサンの買収が、欧州でのMySQLの行方にどう影響するか。同委員会は顧客のDB選択に対する阻害や価格高騰といった要素のほか、ソフト技術者たちがどの程度自由に開発にかかわることができるかなどを、詳しく調査するはずだ。こうなるとオラクルは、MySQLの開発促進やMySQL事業の売却を確約させられるなど、承認に向けて何らかの条件を突き付けられる可能性が高い。

 調査が長引けば、UNIXサーバーの部材を08年度だけで250億円もサンに供給した富士通にも、影響が及ぶと思われる。富士通は部材の売り上げ減を避けられないと見ているが、オラクルとの交渉次第ではUNIXサーバーの完成品の提供に切り替える可能性もあるため、IBMやHPに市場が食い散らされる前の早期決着を期待している。

 もっとも、オラクルにとってハードのビジネスはあまり大きな問題ではないのかもしれない。ハードはソフトを走らせるためのプラットフォームに過ぎないと考えている可能性もある。もしそうなら、サンの顧客は先行きに対する疑念や不安をいっそう募らせることになるだろう。