経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 私は、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟する直前の2001年ごろ、広東省深センに通った時期があります。当時、中国最大級の製薬会社が、外資流通大手の中国進出に対抗するべく、多角化の一環としてドラッグストア・チェーンを作りたいと考えていました。

 そこで、日本のセブン-イレブン・ジャパンの情報システムを作った企業、すなわち、私が“システム屋”として所属していたIT(情報技術)ベンダーに接触してきました。新規事業のためのシステム導入の提案をしてほしい、ということでした。

 もちろん、セブン-イレブンへの配慮がありますから、内部事情をそのまま話すわけにはいきません。しかも私は、その20年以上前に新卒で配属された部署で数カ月間だけセブン-イレブンのプログラムを組んだことがあるものの、当時はセブン-イレブンに直接かかわっていませんでした。

 そんな私でいいのかとも思いましたが、この中国の製薬会社は、既に巨大になったセブン-レブンの情報システムの姿を知りたいわけではありませんでした。この製薬会社は、まず店舗数店から全国チェーンへと事業成長したセブン-イレブンが、どの段階でどのような目的で店舗を変えたり、品ぞろえを変えたり、取引先を巻き込んだ施策を講じたりしたのかを知りたかったのです。それらは報道されている事実さえ知っていれば誰にでも分かることです。

 それに加えて、小売業の経験のない製薬会社が、既存の漢方薬の流通ルートと競合しながらどうやって事業を伸ばしていくべきか、それを情報システム・情報ネットワークの構築と一緒に検討したかったようです。そのアイデアを、流通コンサルタントでもなく、マーケティング・アドバイザーでもなく、“システム屋”、しかも流通業で先進的な情報システムを磨き上げてきた日本の“システム屋”に求めたのです。

グーグルに勝てなくても、業務に付随した情報システムに強い日本

 日本のソフトウエア産業には、残念ながら、米マイクロソフトや米グーグルに対抗できる企業は存在しません。一方で、前述のセブン-イレブンをはじめとして、国際的な競争力を持つ企業の情報システムを作ってきたのも日本人であり、日本企業です。

 「それはユーザー企業の力であって、“システム屋”の力ではない」と言われるかもしれません。しかし、本当に“システム屋”は言われたことをやってきたにすぎないのでしょうか。

 日本の“システム屋”、すなわちITベンダーやシステム・インテグレーターは、その9割が言われたことをやってきただけかもしれません。さらにその半数は、言われたことも満足にできないレベルです。しかし残りの1割は、ユーザーから見て「この人だからできた」「この人とまた仕事をしたい」という“システム屋”が確実に存在します。

 こうした“システム屋”はユーザー企業に対して、ITを活用して「競争に勝とう」「もっと成長しよう」「もっと収益性を高めよう」「他社がまねできないことをしよう」などと思わせる力を持っています。つまり、需要を喚起する力を持っています。