新たな広告・宣伝メディアとして注目を集める電子看板(デジタルサイネージ)を社内で利用する企業が出始めた。オフィスや休憩室に設置した大型液晶ディスプレイに情報を表示することで満遍なく伝達する狙いだ。イントラネットによる情報共有ではアクセス頻度によって情報格差が生じがちだった。

 「長期的に見るとデジタルサイネージは、広告・宣伝以外で使われるケースのほうが圧倒的に多くなる」。デジタルサイネージコンソーシアム理事長を務める慶応義塾大学メディアデザイン科の中村伊知哉教授は、こう予想する。これまでも病院や学校が掲示板に代わる新たな情報伝達手段として使っていたが、最近になって企業が従業員向けに導入し始めたというのだ。

 実際、半導体・電子部品商社のアヴネット ジャパンや内田洋行、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)など従業員向けの情報共有手段としてデジタルサイネージを活用する企業が登場している。広告・宣伝の分野でデジタルサイネージが使われ始めた理由と同様、大型液晶ディスプレイの低価格化とコンテンツ配信に使うネットワークインフラの充実がオフィスでの活用を後押しする。導入コストが下がり費用対効果を出しやすくなった。

 では、効果は何なのか。先行企業は社内情報格差の解消やコミュニケーションの活性化などを狙っている。

イントラネットと併用で情報共有

 アヴネット ジャパンは2008年4月から東京本社と名古屋、大阪の営業所でデジタルサイネージによる情報共有を展開している。3拠点に設置したディスプレイは計7台。再生端末としてソニー製「VSP-NS7」を各拠点に1台ずつ置いている(図1)。

図1●アヴネット ジャパンは社内の情報共有手段としてデジタルサイネージを活用
図1●アヴネット ジャパンは社内の情報共有手段としてデジタルサイネージを活用
コンテンツをパワーポイントで作成し、東京、名古屋、大阪の各拠点に配信する
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 ディスプレイに表示するコンテンツは静止画が中心だ。勤務時間帯である平日午前9時から午後6時までの間に、四半期ごとの売り上げ、環境関連の目標、顧客満足度の調査結果、展示会や表彰式などのイベント報告─といった社内の業務情報を1画面当たり1分~1分30秒の間隔で繰り返し流す。

 こうした社内の情報共有は、イントラネット上の社内ポータルを活用するのが一般的だ。アヴネット ジャパンでも様々な情報をイントラネットで共有している。ただし茂木康元 取締役管理本部長は、「イントラネットでは個々の従業員が能動的に情報を取りにいく必要がある。情報の伝わり方が従業員によって大きく異なってしまう」と指摘する。その点デジタルサイネージでは、「オフィス内のディスプレイに情報が繰り返し流れるため、多くの人に情報を伝えやすい。プッシュ型の情報共有が可能だ」(茂木本部長)。

 同社ではディスプレイをオフィスの壁面上部に設置しており、オフィス内を歩いている時や自席で少し目線を上げた時などに情報が目に入ってきやすい。東京本社のオフィスは広めなので、4台のディスプレイを置いて“死角”を少なくしている。これによりイントラネットを補完し、従業員間の情報格差の解消を狙う(図2)。

図2●企業内に広がるデジタルサイネージの活用方法
図2●企業内に広がるデジタルサイネージの活用方法
オフィス内の情報共有では、イントラネットを補完する役割を果たす
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