本連載では、FN社という架空企業を舞台に、シックスシグマをストーリー形式で解説してきた。第9回は、これまでの展開を基に、シックスシグマの本質を改めてまとめてみる。シックスシグマには、パッケージソフトのようにすぐに導入できる仕組みはない。その考え方を自社流にまで昇華できなければならない。

●前回までのあらすじと今回の登場人物●
大手メーカーFN社は、今年度から全社でシックスシグマに取り組んでいる。情報化推進部で推進リーダーとしてブラックベルト(BB)に指名された小谷さんは、自らのプロジェクト課題に取り組みながら、社内のシックスシグマ活動に積極的に携わり始めた。
情報化推進部:小谷サブマネジャー(ブラックベルト)、門馬部員

 シックスシグマは、“シグマ(σ:標準偏差)”という統計用語にちなんだ名称からも分かるように、もともとは「モノ作り」の現場における作業のバラつきを抑え、不良品を減らすために考えられた改善手法である。1990年代に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が導入したころから、全社のあらゆるプロセス改革に適用されるようになった。

 欧米では、金融機関やホテルといった人間系プロセスが主体のサービス業でも、成果を上げられることが高く評価され、日本のQC(品質管理)活動同様に、一般的な経営手法として広まっている。シックスシグマの全社導入数は、グローバル企業を中心に公表されているだけでも数百社を数える。

 ところが日本では、それで大きな成果を出したという話があまり聞こえてこない。その最大の理由は、自らの改革手法として使いこなすための“自社化”に失敗しているためだ(図1)。特に、シックスシグマ導入にいち早く取り組んだ製造業は、「シックスシグマによる現場改善は、従来のQC活動などと比べ何が違うのか?」といった議論に終始してしまい、理解が深まらなかったといえる。

図1●シックスシグマへの期待と現実のギャップ
[画像のクリックで拡大表示]

 シックスシグマが、導入すればすぐに使える“魔法の杖”ではないということに十分注意しなければならない。失敗企業には、シックスシグマのような経営改革も、外部から容易に取り込めるといった誤解があったのだと思う。逆に、シックスシグマをうまく導入できた企業では、その名称も含めて自社化に成功しており、改善活動自体を「シックスシグマ」とは呼んでいないケースが多い。

 シックスシグマ活動の本質は、「何ができるかを知る」ことではなく、「何がこうした改革活動を阻害するのかが見え、先んじて手を打てる」ことにある。その意味で、シックスシグマはリスクマネジメント手法の一種ともいえる。

 どんな改革活動でも、実践し始めてしばらくすると、やがて活動自体が頭打ちに見える段階が訪れる。しかし、シックスシグマは、そうした段階が訪れることも加味して、種々の役割設定や活動支援策を用意している。頭打ちの状況を放置するのではなく、ここで改めてシックスシグマの本質を読み解き、着実に手順を踏むことを強調する必要がある。