Infrastructure 2.0
西野・グローバルIT研究所 日経コンピュータ

第11回 iPhoneにみる「付加価値」を巡る格差

掃除機ダイソンとiPhoneの共通点

ファンがユーザーを増殖させる

 この感覚は、まるで日本の掃除機と英国ダイソン製の掃除機を比べたときにも、私の心に浮かんできた。実は以前、掃除機を購入しようと家電売り場を訪れ、ダイソンに興味を持ったものの、“サイクロン式”と銘打たれていた日本製品を買って帰ったことがある。しかし、マンションのじゅうたんのほこりが思ったように取れなかった。

 そこで、「どうせ同じ」とは思いながらも、ダイソンを買ってみた。すると、ほこりが取れる取れる。じゅうたんの色が変わるくらいに取れる。このときは、本当にびっくりして知人にもダイソンを薦めたくらいだ。今、iPhoneを見ていると、そのときの驚きを思い出す。筆者の周りでも最近、iPhoneユーザーが増えていくのをリアルに感じるが、その後ろには、ダイソンを友人に薦めた筆者のような人の存在があるのだろう。

 ファンを増やし、iPhoneユーザーを増殖させていくというシナリオは、スティーブ・ジョブズ氏の狙いどおりなのかもしれない。何よりも、iPhoneを持っていると“かっこいい”と思わせることができた点が大きな強みの一つだろう。一種のブランド戦略ありきの情報端末である。

 とはいえ、携帯という世界で、一ユーザーとしての筆者はまだ、「そうは言ってもドコモだよな」と思ってしまう。しかし、「情報端末がほしいなぁ。2台持つのは面倒だから、いっそのことソフトバンクに乗り換えるか?」という思いも正直ある。もう一台持つのか、あるいは乗り換えるのかで迷っているわけだが、iPhoneに対する興味を捨てきれないことには変わりない。

あったら便利より、ほしいと思わせるものを

 これまで、iモード携帯がいくら進化しても、「付加価値=あったら便利なもの」ではなかっただろうか。これに対し、「付加価値=ほしいと思わせるもの」を実現しているのがiPhoneなのだろう。この格差が、機能を増やしてバージョンアップを繰り返してきたWindowsやiモード携帯と、ユーザーに必要なスタイルを提案しているiPhoneとの間に生じているわけだ(かつてのソニーも、スタイルを提案といったようなことを言っていたような気がするけれど)。

 最近、事業戦略会議などに参加していると、「付加価値をつけ、わが社の製品を売るんだ」と意気込んでいる経営者が多数いる。しかし、ここで言う付加価が「あったら便利なもの」であるならば、その製品はそう簡単には売れないだろう。大切なのは、「ユーザーが真にほしいと思えるもの」が提供できるかどうかである。

 きっとも、iモードもサービスが始まった当初は、通話しかできない携帯電話(ちょっと不思議な表現だが)を使っていたユーザーにすれば、非常に新鮮に感じ、大きな魅力があった。しかし、iモードが当たり前になった今、ユーザーはより違った満足感を求める。それを現時点で満たしているのがiPhoneだというだけかもしれない。付加価値という点からみれば、iPhoneのライバルは、携帯ゲーム機のPSPやNintendo DSも含まれる。ユーザーが求めるサービスを追及している各業界の境界は、今後ますますあいまいになり消えていくだろう。

 その時には、ある一つの情報端末(例えばiPhone)を持っていれば、世界中どこへ行っても音楽やゲームを楽しんだり、ネットや電話がつながるサービスを享受したりできるように、インフラとアプリケーションの仕様が統一されているかもしれない。そうした仕様統一の主導権を握ったメーカーは、今のマイクロソフトのように独占的だと言われるかもしれないが、ユーザーには大きなメリットが生まれると思う。

西野 嘉之(にしの・よしゆき)
メディネットグローバル 代表取締役
西野 嘉之(にしのよしゆき)1997年慶應義塾大学理工学部卒。情報工学科において通信ネットワークの研究に従事し、博士号を飛び級2年で取得。2000年度エリクソン・ヤング・サイエンティスト・アワード、第15回電気通信普及財団賞を受賞。2001年に起業し、e-learningや医療関連のシステム開発などで業績を上げている。また各種企業の技術顧問を兼任する。
情報システム構築においては、データの一元管理を提唱。その一環として、会計・財務データを一元管理する企業価値検索サービス「ユーレット」を開発・展開している。

(西野 嘉之=メディネットグローバル 代表取締役)  [2009/10/26]
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