写真1●大阪のデータセンターに設置された最新の共同開発ラック
写真1●大阪のデータセンターに設置された最新の共同開発ラック
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 さくらインターネットは,舞鶴高専に通う学生が始めた,オープンソース・ベースのサーバー運用ビジネスに端を発する。自宅のサーバーをデータセンターに預けることにしたのだが,そこは立地条件が悪く,入館手続きが煩雑で,サーバーに不具合が起きても満足できるサポートを得られなかった。それなら自分が使いたいと思うデータセンターを作ろうと,2社共同出資でさくらインターネットを設立した。それが11年前のことだ。 そのときの学生が代表取締役社長である田中邦裕氏だ。

最初から使いやすさを追求

 データセンターの自社利用も考えていたので,構築コンセプトは明確だった。アクセスの容易な都市型データセンターであること。柔軟なサポートと潤沢な回線を提供すること。価格は安価に設定すること――これらの特徴を最初から備えていたというのが田中氏の誇りだ。

 同社では現在,個人向けのレンタル・サーバーから,法人向けのホスティング,ハウジングまで幅広くサービスを展開する。現在,ホスティングの最も安価なプランは,サーバー1台を専有できるエントリーのプランで月額7800円。ビジネス構想はあっても資本に限りがあるというネット系のベンチャー企業にとって,こうした価格設定は何よりの支援になるだろう。今は名を知られる多くのネット系サイトが,創業時に同社のサービスを利用し成長した,というのもうなずける。

サーバーやラックを自社開発

 安価な価格での提供を維持するために,同社はデータセンター全体を対象としてコスト削減に取り組む。大阪に設けた最も新しいデータセンターでは,ホスティング用のサーバーは自社開発,ラックはメーカーと,ラックのレイアウトは通信事業者と共同開発した。

 同社オリジナルのサーバーは,1Uラックマウントサイズを前後に2分割して置ける1UハーフL型サーバーと,4分割して置ける1Uクオータサーバーの2種類。後者は,CPUにインテルのAtomプロセッサを採用して特に省電力を追求し,1ラック当たり130~160台もの高集積が可能になるという。

 また,このサーバーを収納するため,サイズを最適化するとともに,前後から冷気を吸入して天井部へ熱気を排気できる,専用ラックまで作ってしまった(写真1)。「メーカー製品は汎用的に作られているため,無駄が多い。しかし,データセンターへの設置に特化するなら,ファンなど不要な部品はいくつもある。当社は日本の得意技である擦り合わせ型のモノづくり手法を持ち込むことで,新しい地平を切り開く」(田中氏)。しかも,仲間が増えればよりコストダウンが可能になると,サーバーの仕様などノウハウをあっさりと公開してしまうから驚きだ。

研究所設立で,コミュニティに還元

 さくらインターネットは,独自に研究所を有するデータセンターでもある。「さくらインターネット研究所」がそれで,インターネット技術に関する研究を行う専門組織だ。社内外から寄せられる初期段階のビジネス・シーズを検討したり,先端技術の発展や次世代エンジニアを育成する目的での産学共同研究を行う。設立の背景には,同社を今日まで育ててくれたオープンソース・コミュニティへの恩返しの気持ちもあるそうだ。

ワンモア・ポイント
 サーバー・ルームでの作業にはさまざまなサプライ用品が必要だ。現地について何か足りないことに気づくことも多い。そんなときに重宝するのが,同社のデータセンターにある「ストアサービス」だ。品揃えも気が利いている。ラックのケーブリングにちょうどいい長さのLANケーブルやUSBケーブルがある。配線の際に判別しやすいよう色違いも用意。また,同社のラックにぴったり収まるテーブルタップもある。すべて,同社自身がサーバー設置作業で「あれば便利」と思ったものをラインナップしているという。

基本情報
●名称:さくらインターネット データセンターサービス
●場所:東京都内に4カ所,大阪府大阪市内に2カ所
●最寄り駅:それぞれ,東京都営大江戸線東新宿駅,東京都営大江戸線都庁前駅,JR池袋駅,東急東横線代官山駅,JR大阪駅,大阪市営地下鉄本町駅
●料金:1/8ラック(4U)月額6万3000円~(専用ハウジング,回線別)