毎年10月は、稲刈りの最盛期だ(写真1)。信州ファーム荻原でも朝早くから夜まで、9人の社員が散在するほ場を周り、稲を刈り取るのに忙しい。同社の主力商品は、無農薬米の「やえはら舞」や「浅間こし」などである。2009年は直前にやってきた台風18号の影響もそれほどなく、順調に作業は進んでいる。

図1●写真1●信州ファーム荻原は稲刈りで忙しい時期を迎えている
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図2●写真2●稲刈り作業中に携帯電話にその内容を入力する
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 しかし、信州ファーム萩原のほ場では、他では見かけない工程がある。携帯電話の操作だ(写真2)。ほ場の様子や作業内容を入力し、サーバーに登録するためだ。荻原昌真農場長は、「導入から2カ月と、まだ試用段階だが、データ入力作業の削減には効果がある」と話す。

 昨今、農家の多くが、日々の作業内容や化学肥料の使用履歴を記録することを求められている。食の安全性への関心が高まっていることもあり、取引先や農協から、作業履歴の開示を求められることがあるためだ。信州ファーム荻原も同様である。そのため荻原農場長も、各社員から集めた手書きの報告書を夜、Excelファイルに入力するのが日課だった。

 その作業を、携帯電話を利用することで軽減する。農作業の現場にPCを持ち込むのは難しいが、携帯電話ならほとんどの農家がすでに持ち込んでいる。「若い人なら、携帯電話を使った文字入力についても負担はほんどない」(荻原農場長)。信州ファーム萩原では現在、6人の社員に携帯電話を使ってデータを入力させている。

建築作業用ソフトを農業に応用

 信州ファーム萩原が導入したのは、ソフトバンクテレコムとソフト開発会社のツールズが共同開発したASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービス「TOOLS AGRI」だ。「播種・育苗」「除草剤散布」「収穫」といった農業関連作業の内容を、ほ場ごとに記録できる。

写真3●TOOLS AGRIの携帯電話用アプリケーションの画面例
写真3●TOOLS AGRIの携帯電話用アプリケーションの画面例

 利用者はソフトバンクの携帯電話上で動作するJavaアプリケーションを起動し、データを入力(写真3)。写真などを撮影・添付して、ツールズが管理するサーバーに送信する。

 TOOLS AGRIを開発したツールズは、これまで建築現場用の工程管理ソフトを手がけてきた。それを農作業の工程管理で利用できるようにした。ツールズの根塚雅和常務取締役は、「作業をしながらでも負担にならないよう、入力のしやすさにこだわった」と、サービスの特徴を説明する。

 例えば、JavaアプリケーションからGPS機能やデジタルカメラ機能を、確認画面なしで呼び出せるようにした。通常のアプリケーションでは、「位置情報をサーバーに送ってよいか」などの確認画面が表示され、「OK」や「はい」といったボタンを押下しなければならない。

 TOOLS AGRIでは、ソフトバンクテレコムの技術協力でそうした操作を省略している。これにより、報告書作成時にGPS機能を使えば、どのほ場で作業しているかが自動的に判別されたり、報告書にデジタルカメラで撮影した写真が操作なしに添付されたりする機能を実現した。