「導入してみたものの、要らない機能ばかりで使いものにならなかった」。普段の取材のなかでBI(ビジネスインテリジェンス)ツールに対するこうした悪評を耳にする機会は多い。

 にもかかわらず最近、BIツールを導入する企業が相次いでいる。そうした企業に聞いてみると「評判が悪いのはもっともなことだ。一歩使い方を間違えると全く役に立たない。だが今やなくてはならないツールになっている」という答えが返ってくる。

 今回取材した多くの企業が、BIツール導入による投資対効果を測っていなかった。導入後に売り上げが増えたとしても、それがBIツールのおかげなのかどうか判断できない、ということが理由の一つ。だがそれ以上に大きいのは、導入した動機が「競争優位に立つ」といったことではないという点だ。

 ではBIツールに何を期待しているのか。それは、情報を得るまでにかかる時間の短縮だ(図1)。1998年にDWH(データウエアハウス)を導入し、現在でも利用を続ける食品卸大手の加藤産業の場合、「得意先に提案型営業をする際の資料をもっと早く作りたい、というのが当初の導入理由だった」(社長室の入江幸徳次長)という。その後も、管理会計や採算管理、在庫管理などBIツールの適用範囲を拡大し続けている。

図1●BIはデータ集計・加工の担当者が行っていた作業をシステムに置き換え、合理化する
図1●BIはデータ集計・加工の担当者が行っていた作業をシステムに置き換え、合理化する
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 煎じ詰めればBIは、素早く情報を集める仕組みのことだ。たったこれだけのことが、このところのビジネス環境の急激な変化に直面した企業には重要な意味を持つ。最近BIを構築した企業、例えば百貨店・スーパーを傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)の野田雄三システム企画室長は「従来のシステムでは手作業も必要で時間がかかり過ぎる。もっとタイムリーに情報を得る仕組みが必要だと考えた」と語る。

 現在、未曾有の経済危機の影響で企業を取り巻く環境はつるべ落とし状態だ。新聞や経営誌は、「市況の激変をとらえて対策を打つために、もっと精度の高い情報が欲しい」という経営者の声に満ちている。そうしたことを背景に、BIは「ないと仕事にならない仕組み」に変わりつつある。